第十一話
「い、今の、なんだったんだ……」
あっけに取られた様子のミズキ。何が起こったのか分からずキョウが去っていった先を見つめていた。
「キョウちゃんだよ。トモダチ」
「友達!? の距離感じゃなかったですけど!?」
「んー、いろいろ見方があるから。向こうはそうは思ってないだろうし」
「はぁ……複雑な関係なんですか?」
「んにゃ? つっかかってくる有象無象の中だと気骨ある奴だから好きって話」
「……なんか、戦国武将みたいなこと言いますね。戦国武将、見たコトないですけど」
「なんかいろいろ言われちゃってたけど、だいじょぶだった?」
「いや、その、正直何が起こったのか全然分かんないうちに帰っていっちゃったんで」
「だよねー。言いたいことがあればはっきり言えば良かったのに、キョウちゃん」
サラは箸で残りの玉子焼きを摘むと、ひょいと口にする。むしゃむしゃと方ばりながらキョウとの関係についてつらつらと説明をし始めるのだった。
「つまりは、目の上のたんこぶ……ほどでもない、目の上の……ほくろ? みたいな関係?」
「チャームポイントってこと……?」
どちらかというと、サラが向こうにとっての目の上のたんこぶだった。
「ほら、あたしって、この学校で1番可愛いでしょ?」
「か……開口一番すごい自信だ……! なんか、俺も見習わないと」
サラの大いなる自尊心に圧を感じたか弁当の箸を置いてかしこまるミズキだった。
「可愛いってのは、つまりあたしのこと気に入らない女子もいるってこと。こんなに慎ましやかに暮らしてんのに、ねぇ?」
「あっ、はい。どうですかね? 慎ましやか……」
「特にキョウちゃんはあたしが頭角を表すまでこの学校で1番可愛いって噂の女の子だったから、傷ついちゃったんじゃないのカナ? プライドって奴が。知らんけど」
興味無さ気に説明するサラ。実際のところおそらくサラの解釈は正しい。
ブロンドの髪の毛にこれでもかというくらい整った小顔。お人形さんが動き出したらこうなると10人が10人考えそうな程可愛らしいという形容が正しいと思われる。
さらに、実家は地元の名士ということもあり「沢木」の名はこのあたりでは広く知れ渡っている。そのご令嬢とあらば多くの男子が心惹かれるのも頷けるだろう。
「ま、あたしがいたのが運の尽きよねぇー。あむ。おいし、たくあん」
さも興味なさげにぼりぼりとたくあんを頬張るサラ。その様子を見てミズキが疑問を呈する。
「良く分かんないんですけど、そんな迷惑かかったりするもんなんですか? 勢力争いしてるみたいに聞こえるんですけど、その……たかがモテたりとかで」
「たかが……へぇ」
こちらは興味が湧き出てきたという具合に、サラはミズキの方をじっ、と見つめる。それに気圧されたミズキがやや後ろのめりになる。
「あんま関心ないんだ、ミズちは。女子に」
「……や、そんなことは、無いですけど……」
歯切れ悪く答えるミズキ。
「人間関係拗らせてまで、俺はやろうとは思わないかな、と」
ふむ、とひとまず納得した素振りを見せるサラ。
「ミズちはそういう人なんだ」
「なんか……大それたことを言った気がします」
「んーん、悪くないと思うよ」
不思議な間が空く。やや沈黙があったのち、サラがキョウについて再び続ける。
「キョウちゃんの場合完璧完全にあたしがあやつのテリトリーを奪ったからね。そりゃ恨むわなって感じ。ま! あたしが可愛過ぎるのが悪いよねーって思ってるから、キョウちゃん自体に嫌な印象無いんだよね」
「ああ、だからサラさん側はあんま怪訝になって無かったってことですか」
「そゆこと。理解が早いねー参謀かな?」
「良いですよ、武将の例えに合わせなくても」
「天下取っちゃう? あたしと2人で?」
「1人で取れそうな人に誘われても、ですよ」
「つれない。つれないなぁ」
泣き言を言いながら最後のおかずと口の中に放り込む。
しかし、まさかここが見つかるのは予想外だったと反省する。自分のスター性を見誤ったか、それかキョウの目ざとさを侮っていたか。
さりとて、異性と一緒にいる場面を見られたところで、別に何か困るようなこともないし、揶揄されることを心配する貧弱な心臓も持ち合わせてない。
キョウのあの雰囲気、何か手を打ってきそうな気配はあった……が。
「くくくく。何してくれるのかな」
空の弁当箱を風呂敷で包みながら不敵に笑うサラだった。
「……サラさん?」
「うん? えへへ、楽しいね。ミズち?」
「えっ、あっ……そ、そうですね」
こちらはこちらで、サラの満面の笑みに不意を突かれるミズキだった。
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