お前が邪魔だ。なので付き合ってください
結兎
第一話
《ルビを入力…》「ってかさ〜ユミっち顔めっちゃちっちゃくて鬼羨ましいんだけど〜」
「いや全然そんなことないし私とかマジ全然だよ。カナもいうて髪とか超きゅてぃってんじゃん超羨ましいんだけど」
「うわマジうれし〜そんなこと言ってくれんのユミっちだけだわ〜。でもウチまじやばい。風呂毎回5時間かかる(笑)」
「えら〜大統領じゃんそれもう。いちばん偉い人じゃん」
「全然だって〜ってかユミも肌めちゃくちゃ綺麗じゃない? 化粧水どこの使ってる?」
「え、うちお母さんの使ってるから名前分かんないよ。ってか全然カナ肌やばいからね? 鬼だよ。鬼ぷる鬼もち」
「え〜いやそれほどでもさ〜あるけどさ〜(笑)」
「あたしは?」
「え?」
「はい?」
休憩時間に教室で話している3人は机の上のトランプが示す通り大富豪に興じていた。
内1人、髪の白い少女がおもむろに立ち上がったかと思えば突如2人に質問を投げかける。
控えめに言って美少女と呼んで差し支えない生徒。凛とした視線には情熱がこもっているように思えてならない。その視線に圧倒される他2人は言葉をかえす。
「どしたん? サラ。急に席立って」
「気になることでもあった〜?」
「あたしは? どうなの?」
2人はサラの圧に思わず目配せをする。
「あたしは、小顔です。髪がサラサラで、おまけに肌はぷにぷに」
「なんか言い出したぞこいつ」
「やめろカナ。いつものだからこれ」
「お目目ぱっちりです、爪ピカピカです、Cカップあります、さらに頭まで良くて英語が得意です。なんと体育も得意です」
「自己紹介乙」
「詠唱終わったら教えて〜」
「アニメ見ます。ゲーム実況好きです。FPSも1番下から3番目のランクに最近上がりました。陰キャから陽キャまでのべつまくなしあたしのことを好きになるようなステータスを持っているんじゃないかとあたしは思います」
「誰に言ってるの?」
「早く次の手出してくんない?」
選挙演説のような口調で述べるサラ。その目は遥か遠く明後日の方角に向けられている。その体からは自信が漂っており、まるで疑念が感じられない。ひとえに言葉通り自分は素晴らしい人間であるという主張だった。
「な〜んで誰も告白してこんのや」
「なんでだろ〜ね〜」
「はよ手だせ。ハート5やで」
「うー! やだやだやだ! 告白されまくって逆ハーレム女子高生ライフ送りたかった! イケメン4人衆に同時に壁ドンされて催眠術で固定してイケメン壁ドンテーブル作りたかった! 体育祭のあたし争奪戦で戦争が終わらなくて『戦いを! やめてください!』って叫びたかった!」
「スペックに比例して夢のハードルもたけぇよこの女」
「『あたし争奪戦』がさも実際にあるかのような言い方やめい」
サラ、遠藤咲蘭の目下1番の悩みはモテないことにあった。
何を持ってモテるか、またモテないかは個人差があるだろうが、サラにとってのモテるは『向こうから告白してくる』の一言に尽きた。そして彼女の類まれなる容姿からしてそんなことはありえないと思うかもしれないが、入学してから今までサラが告白を受けたことはただの一度も存在しなかった。
「ねぇ、何が悪いと思う?」
「何がって、何が?」
「サラ姫がモテない理由?」
「うん。だってあたし、あたしじゃない? なんでこんなあたしなのに誰も告白してこないんだろって?」
「まさかとは思うけどこの人可愛いを一人称で代用してない……? ま〜多分、あれだよね、理由は」
「だね〜。十中八九、それだね」
「え、なになに!? なんであたしがモテないか理由分かるの!?」
「高嶺の花でしょうな」
「高嶺の花でしょ」
つまり、サラが余りにも男子の目から魅力的に映るあまり、誰もサラに釣り合うと考えられず告白を見送る自体が起こっているのである。
「端的に言ってサラって可愛いし、真面目で努力家で健気で親しみがあって賢いじゃん? 自信過剰で向こうみずだけどそれだって可愛げに通じてるし、正直完全無敵女子高生っていうか、火のつけどころが無いのよね」
「そ。なんっていうか、小学生の美術コンクールで息子を優勝させようと芸術家のお父さんが本気出しちゃったみたいな。この上物はウチでは扱えません案件なんだよ。サラは」
「そういうことなんだ……なんか、嬉しいような、悲しいような、複雑。でもでも、それじゃああたしはこんなに可愛いにも関わらず卒業まで誰にも告白されないまま過ごさなきゃならないってこと!?」
「そゆこと。まま、せっかくだしウチらと一緒に華のJK謳歌しよ? ってことで」
「じゃ〜大富豪再開〜サラちゃんの番ね」
慰める2人だったが、しばらく唸り声をあげて悩む様子を見せるサラ。
「む〜〜〜〜〜! やだやだやだやだ! 告白されたい告白されたい! めっちゃ優しい石油王のイケメンに抱き抱えられたいのあたしは! イケメン吸血鬼と血の盟約を交わしたい所存なの! インテリイケメン営業マンとオフィス内恋愛してあたしが取引先に倒産レベルの損害与えちゃったのを一緒に謝ってもらいたいの!」
「ここじゃ全部無理だろ」
「昼休みのOLのラインナップかよこいつ」
「ね〜! なんとかならないの!? あたしこんなお高く留まるつもりなんて1ミリも無かったの! 精々全校生徒と教員と用務員さんを虜にしようと思って『女』磨いただけなの! そのせいで誰も告白してこないなんて、あんまりだよ……」
しょんぼりするサラに2人は顔を見合わせる。
2人は観念したかのようにはぁとため息を吐くと、淡々と中断していた大富豪を再開させた。
「サラ、あんた今大貧民だったわよね?」
「これであたしらはあがり。あんたの負け。最下位はなんでも言うことを聞くってルールだったわよね?」
「え? いや確かにそうだったけど、えへへ2人ともどんな命令してくるのかなーわくわく」
何を思ったのか2人して一斉に教室の片隅で無線イヤホンで音楽を聴いている様子の男子生徒に向かって指を刺す。
クラスメイトの志賀瑞紀。
ノートを開いているところを見るに、おそらく次の授業の予習をしている最中に思われた。小柄であまり目立たず、取り立てて特徴もない、ごく普通の男子生徒。その顔からはこれから起こるおぞましい体験のことなどつゆほども感じさせない、清々しく爽やかな様相が呈されていた。
「あいつに告ってこい」
「ば・つ・げ〜む」
「わくわく…………へいあっ!?」
つまりこういうことであった。
高嶺の華である遠藤咲蘭。彼女に誰も告白しないのは、どの男子も彼女が自分に釣り合わないと考えてしまう為である。であるならば、彼らに『あれもしかして俺でもワンチャンあんじゃね?』と思わせることができれば決壊したダムのように告白の洪水が起こるはずだ。
そしてそのキーパーツこそが、今まさに人差し指2本を突きつけられている志賀瑞紀なのだった。
「ああいう目立たなくて人畜無害そうな男子と付き合って他の男子の劣情煽んのよ。煽れるだけ煽ったらさっさと別れて、どうせ陰キャくんなら適当に理由付けて別れても何も言えないだろうし。爆弾の導火線に最適ってワケ」
「ってかさ〜サラってなんで自分から告んないの? ハーレムは無理だけど男子なら誰でも引く手数多なワケじゃん? 部活のキャプテンでも生徒会長でも一撃でオトせるのに」
「へ、へあえっ……こ、告白とかだって、ハズいじゃんか。あたしからするとか」
「こいつ自分は手を汚さずに全てを手に入れようとしてたのか」
「最終的に全てを失う人物像やね」
「で、でもでも……なるほど。アイツに告れば全部上手くいくってことなのか。イケメン生徒会長も、イケメンサッカー部部長もイケメン卓球部副部長も全員が私にこぞって告白しに……うひゃひゃひゃひゃひゃ」
「こいつまじ顔でしか人類判断してないんじゃねーの?」
「卓球部副部長にイケメンは存在しないよ?」
「わかった! ありがとカナ! ユミ! あたしちょっくら旅出てくるから! ちょっと教室の隅っこまで3歩ほど。いーっち、にーの、さーん!」
「行動に移すの早ぁ」
「できる社会人の速度じゃんね」
大股で跳ねるように教室の奥へ駆けていくサラだった。
多くのクラスメイトがその様子を伺っている。その光景は教室にオーロラが浮かんだかのような、ありえなくもあり、美しくもあった。
志賀瑞紀の前に遠藤咲蘭が立っている。
何やら興奮しているような、期待の眼差しでミズキを見下ろすサラ。
それに対し椅子に座るミズキは自分の身に何が起こったのかを把握するのもままならず、突然の有名人の来訪にあっけに取られていた。
震える手でイヤホンを外すミズキ。多くの生徒にとって、サラにここまで近づかれることは夢のまた夢だった。その見下ろす角度他のクラスメイトには神が人間を空から見る角度に等しかった。
にっこりとミズキに笑いかけるサラ。
「えーーーっと……志賀君?」
「えっ、あっ、えっ、えっ。何これ、何ですか? あ、はい。志賀です」
「……つ」
「……つ?」
「……」
「……? え、あの、遠藤さん? 大丈夫ですか? 顔、真っ赤ですk」
「つきあってください!」
「えっ、あっ、えっ……あっ、え? ……あの、もしかして何かの罰ゲームとかじゃ」
「ずっと前から好きでした! 私と付き合ってください!」
「えっ……あ、はい……ごめんなさい」
「……え?」
……え?
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