第21話 王と皇帝
皇帝はドゥーサ・マーニの
行軍の間、おぞましい光景を目にしてきていた。さらし台には村の男たちが
「陛下、いま一度平和の価値についてお考えください。我々は苦労して平和を守り、帝国を
テリー公は戦争を思いとどまるよう、アレックスに
「わかっている。あなたに言われたからこうして、虐殺王に会おうとしている。戦争の代価だって心得ている。私は皇帝だ」
皇帝の言葉に、テリー公は頭を低く垂れて下がった。
「テリー公はまるで何も変化を望んでいないようだ。虐殺王との戦争も国内の逃亡奴隷の保護に関する法案も、しつこく止めようとしてくる。彼も引退するべき
ジョン・トルナドーレがアレックスの隣まで馬を進めて助言する。
「テリー公は父の代から仕えてきた忠臣だ。どのように引退を伝えるべきか悩んでいる」
「戦争が始まる前に政治から
草原の向こう側から馬に乗った男たちがやってくるのが見えた。エズラとその
王は黒馬にまたがった大男である。彫刻のようにハンサムな顔は、
この青年はエズラの
「エイダ王殿」
アレックスが厳しい表情で口を開く。風が吹いて、金髪がなびいた。
「皇帝殿」
エズラの顔に小馬鹿にするような、へつらうような、なんとも不愉快な表情が浮かぶ。自信に満ちていた。
イリヤ側が用意した天幕に二カ国の統治者と忠臣たちが入っていった。
交渉は思っていた通りの結果である。まず、イリヤ側が提案した。
第一に帝国領での民の虐殺および民家への放火、村や都市への放火をやめること。第二に帝国領でのイリヤ人の
アレックスには妥協する気などなかった。エズラとて同じである。彼はこの
「
アレックスがエズラの
「いや、リリィは戻る。あいつは自分のために誰かが犠牲になるのが耐えられないんだ。俺はあんたと違ってリリィのことを知り尽くしている。散々かわいがってやったんだ。あいつがどんな風に泣くか知ってるか?あいつがどんなふうに抱かれるか?あいつの裸は
ジョンが派手な音を立てて席から立った。アレックスが平静をたもってジョンを見やる。
「失礼だが、国王殿、あなたの提案を受け入れることはできない」
アレックスが言った。
戦争が始まった。
皇帝軍はドゥーサ・マーニの砦で戦いに備える。エズラたちは野営地へと帰っていった。
夜も明け方も明るい
だが、来る日も来る日もエイダ軍はやってこなかった。
日が沈み、夜がやってくる。衛兵たちは眠らない。
遠くに火のあかりが見えた。松明でも焚き火でもない。炎が空高くそそり立った。
「焼き払っている!焼き討ちだ……」
衛兵が仲間をゆすって言う。
「どこだ?火は見えないぞ」
仲間が砦の周囲をみまわして言った。
「違う!俺たちじゃない。村人たちが殺されているんだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます