7 春はあけぼのというけれど……

春はあけぼのというけれど、

そもそも春が好きになれない。

春は変化の季節。

ようやく慣れた環境にも容赦なく変化を与えてくる春ってやつは、

気持ちを不安定にさせる。

変化に希望を感じられたのはいつの頃か。

物心つく頃には不安しかなかった。

でも、桜の綺麗さと散る美学は良い。


夏は暑い。

とにかく暑い。

ちょっと暑くなりすぎでしょ。

夜でも暑いってホント困りもの。

だから、夏こそあけぼの。

大地と大気が夜に冷めるだけ冷めて、再び熱される前。

心地よく過ごせるごく短い時間の中で、薄明るい空を眺めるのがいい。

貴重な時間を過ごす贅沢。


秋は夕暮れ。

やっぱり夕暮れ。

日に日に日が短くなり、

早く家に帰って休んでといいよと言ってくれている。

残暑は長いが、涼しさを感じられる日があると、

幸せな気分になる。

夕焼けに照らされるうろこ雲の美しさもよい。

下校の時にくぎ付けになったあの空の記憶が、脳内から消えることがない。


冬は夜。

どれだけ寒かろうが、

あの澄んだ夜空に勝るものはない。

綺麗で長い夜は、心を穏やかにしてくれる。

そして、寒いからこそ感じられる温かさは、幸せの感触だ。

冬は寒い方がいい。

ちゃんと寒くなってくれないと不安。

将来が不安。

自分の将来じゃなくて、地球の将来。


春は変化の季節。

ちょっと不安だけど、ちゃんと回ってきてくれた方が安心だ。

そして、四季折々の良さは、すべて名残惜しい。

名残惜しさが巡るから、世界はいろづくのだ。


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