黒凰と詩の姫巫女
KaoLi
プロローグ:少女と青年
木漏れ日が地にたゆたう
その中枢部には清らかな水の流れる湖がある。
湖では森に棲む野鳥や小動物が、水場で羽を休めたわむれる。パシャパシャと水が跳ねれば、日の光に反射しきらきらと輝く。ツンツンとつつくとそれは小さな飛沫をあげ、空に光の雨を降らす。するとどこからか美しい音の調べが彼らのこころを一瞬にして奪い去った。
湖の水面に白く映える素足を浸けて涼を取り〈
彼女が暮らす
初めの頃は森の動物たちは
今日も凰の森では
彼らと
さらさらと流れる水のせせらぎとともに聴こえる
突然湖の近くで、野鳥の「ピィイイ……」と高い鳴き声が凰の森をぐるりと響き回る。詩が終止符を打たれたことで、それに驚いた動物たちが勢いよく
「……!」
上空で飛び回る、止まぬ野鳥の声に耳をすませる。ピィッ、ピィ、と焦ったような、不安の色が混じる鳴き声が
——凰の森で、なにかが起きている。
*****
野鳥たちに導かれて
野鳥たちが騒ぐ原因は、その
年の頃は
そろりと近づいているとはいえ、青年は
どうして、いったいなんのために、彼はこの凰の森に入ってきたのか。
いや、そもそも入るだけならば不思議には思わない。
問題は、誰が、彼を傷つけたのか。そこが重要である。
——そもそも。
森の動物たちは
彼女を青年の許に導いた野鳥も、その一匹だった。
(……よかった。生きてる。……でも、どうしよう。——〈
魄とは、この國の生命力と同類の力の総称である。
この魄が弱いということは、青年の命が
動物たちは
ふと、一羽の兎が
きっとこの青年がここに倒れるまでの一部始終を見ていたのだろう。なにもしてあげられなかった不甲斐なさから、兎は小さく非力な自分の体を疎ましく思っていた。暗い感情がじわりと流れ込んで、
「……大丈夫よ。すぐに良くなるわ」
さらりと吹き抜けた風が青年の顔をさらす。その美貌に、
ドキドキと胸の鳴りが静かに繰り返される。
「きゃっ」
なにごとかと、一瞬自分の身に起きたことの理解が追いつかなかった
胸の高鳴りはさらに早鐘を打ち、
けれど、いつまでも動揺している暇はない。人の、青年の命がかかっている。
「……ごめんなさい」
それは、なにに対しての謝罪か。
どこかで、火の衣を纏いし独りの巨大な鳳凰が、無機質な双眸を瞬いて彼らの様子をじっと眺めていた。
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