マジックドレインで俺だけMP限界突破! 魔力至上主義社会の底辺に転生したけどチートスキルで成り上がる!

逢巳花堂

第1話 魔王を討伐したけど騙されて毒殺されました

 神樹歴2051年。


 のちに魔王大戦と呼ばれる、人間と魔王の戦いは、最終局面を迎えていた。


 荒れ果てた辺境の荒野。ところどころに尖った岩があり、うっかり転べば大怪我を負いかねない危険な大地。土は腐ったようなどす黒い色で染まっていて、見るからに不毛の地である。空には暗雲が垂れ込めており、ひっきりなしに雷が落ちている。


 そんな地で、六人の英雄達は、天をも覆わんばかりの巨大な魔王を相手に、全力を尽くして攻撃を仕掛けている。


 騎士のリヒャルトは猛然と突進しながら、魔王が放った氷柱魔法を、聖剣で弾き返す。砕けた氷は雷光を受けてキラキラと輝きながら、宙を舞う。


 ドワーフの戦士バルクスは、すでに魔王の足元へと肉迫している。頭上で斧を旋回させて、魔王の足首に叩きつけた。たちまち鮮血が噴き出し、バルクスの全身を赤く染める。


 空からは、幻獣である竜人ワンムーが、飛竜形態で魔王の顔面へと襲いかかる。


 白魔法が得意なメリッサと、黒魔法が得意なナラーファは、最前線で戦う三人の仲間達を、それぞれ魔法で援護している。


 そして、賢者エミールは――


「むにゃむにゃ……」


 寝ている。


 寝心地が悪かろうに、ギザギザの岩の上で、気持ち良さそうに寝息を立てて、眠りについている。


「エミール! 起きんか、ばかもん!」


 バルクスの怒鳴り声を受けても、エミールは目を覚まさない。かと言って、何もしていないわけではない。彼の周囲には青いバリアが張られており、魔王の攻撃をしっかりと防いでいる。それだけではない。バリアは攻撃を防いだ後、自動で反撃魔法を放つのである。


 めんどくさがり屋のエミールが作り出した、オートメーション魔法。氷結魔法を受ければ、火炎魔法で反撃し、雷撃魔法を受ければ、水撃魔法で反撃する。わざわざ起きる必要もない。


 が、とうとうリヒャルトが駆け寄り、バシンッとエミールの頭を引っぱたいた。


「いい加減にしろ! 手を抜いて勝てる相手じゃないぞ!」

「うーん……君達が頑張れば、俺の出番は必要ないでしょ……むにゃむにゃ……」

「必要としているから、起こそうとしてるんだよ! いいから真面目に戦え!」

「しょーがないなあ」


 エミールは寝ぼけ眼をこすりながら、身を起こした。


 それから、わずか五分で、決着はついた。


 スキル「マジックドレイン」。相手から魔力を吸収し、自分のものとする能力。溜められる魔力は、無限。普通の魔法使いは最大でもMP999までしか持てない。しかし、エミールの「マジックドレイン」は、限界を突破できる。


 つまり、禁断魔法であろうと、連発し放題。


 凶悪なまでの圧倒的強さで、魔王に禁断魔法を次々と叩き込むことで、あっという間にエミールは魔王を撃沈したのである。


「さすが、エミール! すごいわ!」


 白魔導士のメリッサは、目を輝かせながら、エミールのことをたたえた。


 エミールは、ブロンドの長髪をサラッと手でかき上げる、キザな仕草を見せた後、フッと余裕の笑みを浮かべた。


 こうして、魔王大戦は、六人の英雄達(と言いつつ主には賢者エミールの功績)によって、終結したのである。



 ※ ※ ※



 だが、エミールは、いま死にかけていた。


「ぐふっ……!」


 床に倒れ伏した状態で、吐血する。


 なぜこんなことになっているのか。どうして、自分は殺されようとしているのか。


 祖国マギルヒカに戻ったエミールは、凱旋パレードに参加した後、黒魔導士のナラーファにお茶に誘われた。


 エミールは、ナラーファのことが好きだ。


 そんな彼女に「お茶でもどう?」と声をかけられたら、その誘いに乗るしかない。嬉々として、彼女の館に赴いたところで、美味しそうなお茶を振る舞われた。


 で、お茶を飲んだ瞬間、血を吐いたのである。


「ナ、ナラーファ……どうして……」

「この国で力ある存在は私一人だけで十分よ」


 冷たい眼差しで見下ろしながら、ナラーファは言い放つ。


 そのひと言で、エミールは全てを理解した。


 マギルヒカの出身者は、エミール、ナラーファ、メリッサの三人。その中で、最も強大な力をもつエミールは、次期国王にふさわしいと評されていた。


 それが、ナラーファは気に食わなかったのだ。きっと。たぶん。


 彼女の権力志向を、エミールは甘く見ていた。どんな手を用いても、このマギルヒカの国王として君臨したい、そんな野望を抱いている人間なのだ。


(死ねない……! 死にたくない……!)


 人生はこれからではないか。面倒な魔王討伐を終えて、平和になったこの世界で、スローライフを送るのもハーレムライフを送るのも、自分の好きなように出来るであろうに、こんな形で毒殺されて終わりなんて、そんなのは嫌だ。


 だけど、ナラーファは、かなり強力な毒を盛ったようだ。


 自分は間もなく死ぬ。その運命は避けられない。


(こうなったら、奥の手だ……!)


 ナラーファに気付かれないように、エミールは指で印を結び、魔法発動の条件を整える。死ぬ直前の魔王からマジックドレインで吸い取っていたので、魔力は凄まじい量が溜まっている。おおよそ100,000,000MP。この莫大な量のMPを全部使って、究極の禁断魔法を発動させる。


 転生魔法!


 自分の魂を、時空の彼方へと飛ばして、別の時間軸で新たな生命として転生させる、禁忌中の禁忌の魔法だ。


 発動条件が整い、まばゆいばかりの白い光で、エミールの全身は包まれる。


「まさか転生魔法⁉ そうはさせないわ!」


 ナラーファは手近な剣を手に取り、倒れているエミールの胴体に突き刺した。しかし、もう転生魔法は発動している。もはや止めようがない。


 エミールの意識は、真っ白な光の中へと溶け込んでいった。



 ※ ※ ※



 次にエミールが目を覚ました時には、知らない部屋のベッドに横たわっていた。


 周りを見れば、物置のような状態で、雑多なアイテムが散らばっている。武具のような物も見えるが、すっかり錆びついていて使い物にならなそうだ。並んで置かれている樽は、酒でも入っているのだろうか。


 ベッドから身を起こして、室内を物色し始める。


 鏡を見つけた。


 自分の姿を映し出してみれば、目つきの悪い、不健康そうな黒い短髪の男が、鏡の中にいる。ブロンドの長髪で甘いマスクだった、元の自分とは、まったく異なる外見。


 だけど、この人相の悪い男が、エミールの転生先なのである。


(もうちょっとモテそうな顔がよかったけど、まあ、受け入れるしかないな)


 まず、ここはどこなのか。いまは何年なのか。それらのことを知るために、探査魔法を発動させようと、エミールは呪文を唱え始めた。


「アン・クエール・サムス・ナウス・マイント・アント」


 が、何も起きない。


「……んん?」


 おかしいな、と思いながら、他の魔法も試してみようとした。


 ところが、どの魔法も発動できない。まったく使えない。


「まさか、嘘だろ⁉」


 よりによって、転生したのは、MPゼロの体――魔力を一切持たない人間であった。

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