気の短いサンタクロース

江戸川努芽

 プロローグ

 一年前、十二月二十四日。


 クリスマス。

 それは、誰もが待ち望むビッグイベントの日である。

 家族と過ごす者、恋人と過ごす者、友人と過ごす者、その時間の使い方は様々だろう。

 二十歳以上の人間を調査対象にしたところ、半分以上の者がクリスマスは恋人と過ごしたいと答えた。


 大人にとって、クリスマスとはまさに恋愛のステータスだ。特別な異性と過ごせるだけで、心の余裕が生まれる。

 だが、子供たちの間では別だ。クリスマスとはサンタクロースからプレゼントを貰うことができ、加えて学校も休みになる。

 特に小学生のあたりからは、サンタクロースの正体は自分の両親だとか、夢のない現実を知ってしまう者もいるだろう。


 しかし、それでも多くの者は待ち望んでいる。あの赤い服を着た肥満体の老人から、特別なプレゼントを貰えることを。

 そんな誰もが楽しみに控えているクリスマス当日、その日は朝から不穏なニュースが流れ、世間を騒がせていた。


 内容は、子供の大量失踪事件。


 朝目が覚めると、枕元に寝ていたはずの子供が消えていた。それもほぼ同時刻に、ある島で一斉に発生した。

 その異質さから、単純な家出とは考えられなかった。まるで神隠しにでもあったかのように、子供が消えてしまったのだ。


 誘拐事件かとも思われたが、犯人からの連絡は一切なく、事件は停滞していた。

 後に、子供が失踪した家庭では日常的に虐待行為が行われていたことが明らかとなり、同じ苦痛を抱える子供たちによる家出とした処理されることとなった。


 今では、子供でもインターネットの使い方を熟知しており、学校などでもパソコン関連の授業は少なくないため、サイトか何かで知り合ったものだと結論付けられた。

 しかし裏付け捜査の結果、子供たちがそのようなものを利用した形跡はなかった。

 世間ではサンタクロースの誘拐事件と、その名がつけられた。


 だが、事件はこれだけでは終わらなかった。

その日を境に、夜になると子供が忽然と消えてしまう神隠しが多発したのだ。

 その家庭はいずれも、子供を肉体的、精神的に虐待しており、ある界隈では子供たちを救う正義の存在として噂されるようになった。

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