白百合と黒薔薇 黒薔薇視点

幼少期、近所によく遊ぶ女の子がいた。

名前はわからないけど、黒髪で白百合が似合う子だったのは覚えている。

幼かった私は、彼女が天使だと思っていた。

だが成長するにつれて鍛錬が忙しくなり、その子と遊ぶことは段々無くなっていった。



あれから十数年の時が経った。

私は現在、三人の兄と共に騎士団に所属している。

入った当初は”女だから”と見くびられることもあったが、そんな連中は全員徹底的に打ちのめしてきた。

そのこともあってか、今では一つの軍を率いるまでとなった。


そんなある日、森の中を調査していると泣き声が聞こえてきた。

泣き声がする方へと近付いてみると、黒髪の少女が蹲って涙を流していた。

声をかけた際、一目見て少女が思い出の中の

彼女であることがわかった。


こちらを見つめる大きな瞳、何かあるとすぐに手を口元へ持っていく癖、パニックになると泣き出してしまうところ。

三つ編みだった髪型はミディアムヘアへと変わっていたが、よく似合っていた。


何もかもが懐かしく、そして愛おしかった。


久しぶりに何を話したら良いのか悩みつつ、手を差し伸べると私の手を掴み、そのまま立ち上がった。

でも彼女は私のことが誰なのかわからないようで、他人行儀に接してきた。

寂しく思いつつも、また新たに思い出を作ることが出来れば良いと考え、彼女の前では常に笑顔でいることにした。


再会してからは、何かと声をかけては話すようになった。元々私は話すことが得意ではないが、彼女に失望されないためにも話題を考えてから眠ることが日課となった。



そして私はこの想いを伝えようと決心した。

幼い頃から彼女に恋をしていたからだ。



花屋で白薔薇のブーケを受け取ると、自然と笑顔になった。だが彼女に会いに行けると思うと同時に、関係が壊れてしまうのではないかと不安になった。


結局しばらくの間、悩み続けてしまい白薔薇のブーケは萎れてしまった。


あれから数日後、花屋で黒薔薇のブーケを購入し、彼女に会いに行くことにした。

ここまで来れば、当たって砕けた方が良いと考えてしまったからだ。

もし嫌われてしまうのであれば悲しいが、私のことを忘れても幸せに生きていてくれるのならばそれで良い。


街の人からは彼女は森の方へと入っていったと教えられ、黒薔薇のブーケを片手に森へと歩みを進めた。




彼女を見つけた時には、手に持っていた黒薔薇のブーケを落としてしまった。 

白百合の中で眠るように死んでいたからだ。

切り株に置かれた手紙には『あの日の騎士さんへ』と、私宛であることがわかった。

丁寧に封を開けると、そこには彼女の気持ちが描かれた遺書(愛の告白)であった。

私は思わず涙を流しその場に跪いた。


彼女も私と同じ気持ちだったからだ。


白薔薇のブーケを購入した時点で伝えていればこんなことにはならなかった。

私が悩まず、あの日に伝えてしまえば良かったのだと後悔した。

泣き崩れる中、彼女が遺していった瓶が目に入る。手に取って嗅いでみると、毒薬であることがわかった。

白百合の中で眠る彼女を一瞥すると、そのまま一気に飲み干した。

そして彼女に近づき、唇を重ね合わせた。




これが最初で最後の口付けとなった。




そのまま彼女の隣に横たわると空を見上げた。涙で視界が滲んでしまい、何もかもが朦朧とする。

騎士としての責任を放棄することになってしまったが、兄たちに任せていればきっと上手くいくだろう。





自分勝手な私を今だけは許してくれ。

もし生まれ変わることができるのなら……。


再び巡り逢えたら、この想いを君に伝えよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る