婚約哀歌②!

崔 梨遙(再)

1話完結:1100字

 最初の嫁さん、当時まだ女子大の4年、その頃には婚約していた。



 僕の住んでいた寮は、アパートの一室。プライベートタイムを確保できる。隣近所に先輩が住んでいて、みんなそれぞれ恋人を連れ込むのだが、お互いに見て見ぬフリをしていた。


 僕はその頃、月に100時間~140時間の残業をしていた。帰りは遅い。金曜日に帰ると、婚約者の愛子が電気も点けずに奥の部屋ですすり泣いている。


“なんでやねん!”


「なんで泣いてるねん?」

「崔君の帰りが遅くて、寂しくて」

「先週も、先々週も言ったやろ? 僕は金曜日、仕事が忙しいから土曜から来いって。なんぼ愛子が寂しかろうと、金曜は帰りが遅くなるねん」

「でも、大学は単位を取り終わって卒論だけやから家にいても暇やねん」

「それで、僕の部屋で泣いてても仕方ないやろ?」

「でも……他に行く所も無いし。退屈やし」

「それで泣いてても、しゃあないやろ? 土曜日から来てくれ。残業で疲れて帰ってきてるのに、家で泣きながら待たれてたら気が重いわ」

「ほな、私はどうしたらええの? 今、崔君しか話せる相手がいないんやで」

「習い事するとか、パートに出て、自分を忙しくしてみたら? 友達を作ったらええねん」

「うん、わかった」



 ところが、愛子は習い事もパートもスグにやめた。何をかんがえてるのか、わからない。“習い事に行っても、パートに行っても、友達が出来へんからつまらない”と言っていた。どうして、友人の1人も作れないのだろうか? まあ、内気で自分から話しかけられないから、当然なのかもしれないが。


 そして、金曜日の晩に泣きながら待っている愛子がいる。ここまでくると、鬱陶しい! と思ってしまう。僕は土曜に来いと言っているのに、愛子は金曜日に来る。愛子のワガママ放題だ。いい加減、“まともに相手出来へん奴やなぁ”と思うようになり始めていた。


「単位を取り終わって、卒論しかないから暇とか、それで金曜から来るとか、全部愛子の都合やんか、なんでそんなにワガママやねん」

「私、ワガママとちゃうわ」



 だが、月に1度、愛子にとっての楽しみがあった。給料日だ。愛子は、僕の給与明細を見て、ニタニタと満面の笑みを浮かべる。100時間以上の残業代が入っていたのだ、給料は2倍になっていた。


「私は、残業が憎い! 私は残業を恨む!」


 と言いつつ、給与明細を見たらその日はニコニコ。僕は、愛子の相手をするのが馬鹿馬鹿しいと思うようになっていった。



 そして、金曜の夜には愛子のすすり泣く声。もう、嫌や。婚約破棄したい。僕は奥の部屋のドアを開けた。愛子が座り込んでいる。愛子は大量のティッシュで涙を拭っていたようだ。もう、同情はしない。



「何回、同じことを繰り返すねん?」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約哀歌②! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る