155. VS亡霊騎士 後編

「そういう強化はダメだろうが!」


 見事に死んでしまった狩須磨は身代わり人形のおかげでダメージが消え、不満を叫びながら立ち上がった。


「先生!」

「大丈夫ですか!?」

「ああ、だが厄介なことになったぞ!」


 正面から攻撃しようにもギロチンに吸い込まれるのであれば、果たしてどうやって攻撃すべきなのだろうか。


「私がやります。先生はその間に……」

「よし分かった!」

「じゃあ私はアレだね!」


 具体的なことを口にせずとも二人は望がやろうとしていることを察した。


 狩須磨は経験によるもの。

 いんは成長によるものか。


「良い加減、逃げないでください!」

『ブヒイイイン!』


 亡霊騎士はブレイブソードを手にする望を苦手としている。望であればギロチンを武器ごと破壊可能だからだ。


 ゆえに、ギロチンを継続させながら望から距離を取ろうとしていた。


「(相打ち覚悟で相手が攻めてきたら私も死んでしまう。身代わり人形がある分だけ私が有利だけど、もしあの騎馬が突撃してきたら相打ち相手は騎馬になり、騎士が超強化される最悪の状況になってしまう。相手もそのくらいは分かっているだろうに、やってこないのは何故なのか)」


 確かにその通りなのだが、騎馬の特攻のことを考えるならばそれより先に考えるべきことがある。


「(そもそも自分から騎馬を降りれば超強化されそうなのに、どうしてやらないのだろうか)」


 そういう設定だから、と言われればそれまでだが、オーラで強化されて思考力までも強化されているのであればその設定を改変することだってあり得る筈だ。


「(少し試してみよう)」


 望は逃げる亡霊騎士を追いながら、騎馬に向かってブレイブソードを投げてみた。

 急旋回しても避け辛い完璧な位置とタイミングだ。


 騎馬は素早く反応してソレを避けようとするが、後ろ脚に掠りそうだ。


「(よし、当たってくれれば騎馬を倒さずに機動力を潰せるかも)」


 なんとなくでの行動だったが、大戦果を挙げることになるかもしれない。


「え?」


 しかし残念ながらブレイブソードは騎馬に当たらなかった。

 亡霊騎士がギロチンを中断させてまで大剣を盾にしたのだ。何でも斬れるブレイブソードだが、レベルが低いため斬る際に少しだけ抵抗がある。大剣に当たったことで僅かにスピードが落ちて、騎馬が躱せてしまったのだ。


「(そこまでして騎馬を守る? もしかして亡霊騎士は騎馬を大事にしているってことなのか?)」


 ゆえに騎馬を倒されたら激怒して超強化するのかもしれない。


 その予想の正しさを証明するかのように、騎馬を狙われたことで少し怒ってしまったようだ。


 亡霊騎士は大剣を後ろに振りかぶると、望に向けて思いっきり投げて来たのだ。


「うわわわわ!」


 ブレイブソードを再度生み出して迎撃しようにも、斬られながら望に当たってしまう。真正面から斬ると綺麗にスパっと両側に分かれてくれるなんてことは無いのだ。それをやるにはスキルレベルが色々と足りない。


 慌てて横っ飛びして避けると、大剣は物凄い音を立てて望の背後に着弾し、地面が尋常ではないくらいに削られていた。当たったら即死間違い無しだろう。


 遠距離攻撃ならばブレイブソードも脅威ではない。

 そう考えた亡霊騎士は次々と望に向かって大剣を投げつけて来た。


 縦回転、横回転、斜め回転、真っすぐ。


 新たに大剣を生み出しては投げ、生み出しては投げ、望は肝が冷える想いをしながら必死になって避け続ける。


「ま、まける、もん、かあ……」


 あまりの恐怖の連続に流石の望も勇往邁進の効果が薄れて来た。


「こっちも見なさいよ!レーザービーム!」


 それならばと攻撃を分散させるためにいんが亡霊騎士に攻撃を仕掛けた。


「ちょっと!無視しないでよ!」


 だが大したダメージでは無いからか、完全に無視して望への投擲攻撃を継続する。

 一番厄介な相手を倒すチャンスなのだ、当然の判断だ。


「そっちがその気なら、私にだって考えがあるんだからね!」


 先ほどの望のブレイブソード投擲。

 それを見ていんも望と同じ結論を導き出した。


 すなわち、亡霊騎士は騎馬をとても大切にしているのではないか。


 だったらこっちも無視できないように大切なものを狙えば良いのだ。


「どでかいの行くわよ!」


 確実に騎馬にダメージを与えるために、いんが取り出したのはトゲ鉄球だ。


「うりゃああああ!」


 それをハンマー投げの要領で回転させ、騎馬に向かって放り投げた。


「いっけーーーー!」


 流石にそれは無視できなかったのだろう。騎馬は大きな動きでそれを回避し、亡霊騎士がいんの方をギロリと見た。


「ひえ!」


 そして狙い通りいんの方にも大剣を投げて来たのだが。


「怖すぎいいいい!」


 どでかい大剣が空気をブォンブォン鳴らしながら飛んでくる様は壮観で、あまりの恐怖に足が竦んでしまいそうになる程だった。相手を撃破する方法が無いいんはこうして相手の注意を引く役目なのだが、こればかりはその役目を受け入れたことを少しばかり後悔していた。


 だが望といん

 二人の騎馬を狙って怒らせての引きつけが功を奏したのか、亡霊騎士は大事なことに気付かない。


 彼らから離れた所で狩須磨が魔法を重ねに重ねまくって準備をしていたことに。


「さっきは良くもやってくれたな。今度は俺の番だ!」


 あまりにも魔法を重ねすぎたのか、狩須磨の身体からパチ、パチ、と聖なる電光が漏れ始めていた。


「喰らえ、セイントチェイサー!」


 その瞬間、狩須磨の身体から分身するかのように人型の聖属性エネルギーが出現した。そしてそれは亡霊騎士に向かって猛スピードで突撃する。


『ブヒイイイン!』


 魔法が飛んでくることに気付いた騎馬は慌ててそれから距離を取ろうと逃げようとする。しかしエネルギーは騎馬の後をぴったりと追尾する。しかも騎馬の全力のスピードよりもエネルギーのスピードの方が僅かに上。


 やがてエネルギーは亡霊騎士のすぐ傍まで辿り着き、大きく飛んで騎士に向かって抱き着いた。騎士は反射的に大剣を振るって迎撃しようとするが、相手は魔法エネルギーであるため効果は無い。


『!!!!!!』


 声無き悲鳴が聞こえたような気がした。


 猛烈な聖エネルギーが騎士の身体全体を焼き、聖属性耐性を貫いて大ダメージを与えているのだ。


 通常、追尾系の魔法は追尾するという能力に魔法力を使ってしまっているため、魔法そのものの威力はやや弱めだ。だが狩須磨は魔法の重ねがけというオリジナルの技術でその欠点を補ったのだ。


 亡霊騎士は騎馬を倒してしまってはダメ。

 もしも派手な魔法で騎馬ごと攻撃してしまっては、騎馬だけ倒してしまう可能性がある。

 ゆえに狩須磨は追尾魔法を使うことで騎士だけを攻撃できるようにとこの魔法を選んだのだ。


『!!!!!!』


 果たして何重に重ね、どれだけの威力があるのか。

 騎士の身体は聖エネルギーのダメージにより光り続ける。


 そしてどれだけの時間が経ったのか、光が消えた後にはがっくりと力無く項垂れる騎士の姿があった。


「倒した……の?」

「消えてはいないようですが……?」

「チッ、まだ足りなかったか」


 一見して撃破したように見えるが、靄と化していないことから察するに、倒しきれてはいないらしい。となると果たして何が起こるのか。


『ブヒイイイン!』


 相棒が倒されそうになっていることで、今度は騎馬が激怒したのだ。

 物凄い勢いで三人に向かって突っ込んできた。


「今なら馬を倒しても大丈夫なの!?」

「いやダメだ。奴は超強化される際に全回復する!」

「つまり暴走している馬を避けながら騎士にトドメを刺さなきゃダメってことですね!」

「めんどくさーい!」


 逃げ惑う三人は、どうにか攻撃のチャンスが無いかと隙を伺う。だがあまりにも激しく暴走しているため、中々狙いを定めにくい。


「少しでも動きが止まれば私が斬ります!」

「なら俺に任せとけ!」

「私もやるわ!」


 狩須磨は走りながらある魔法を唱えた。


「アースシェイカー、そしてアースミニウォール!」


 騎馬の足元だけを揺らし、同時に小さな壁を出現させたのだ。足元を不安定にさせて動きを封じる作戦だ。


 だが暴走している騎馬にはその程度のお邪魔など意味を為さなかった。揺れていることにも気づかず、土壁を真っ向から破壊した。


「チッ、この程度じゃダメか」

「いえ、大丈夫です!」

「お、おい馬鹿!何やってやがる!」


 破壊した土壁の向こうには、愛用のランスを構えたいんが居た。


「聖天冠君、後はお願い!」


 猛スピードで突っ込んでくる車の正面に立っているようなものだ。土壁への激突で多少スピードが落ちてはいるが、このままでは弾き飛ばされて大ダメージを負ってしまう。


 治りの遅い傷のせいで、いんの体中はボロボロだ。

 至る所から血が出て、綺麗な顔にも大小無数の傷が目立つ。ポーションで治ると分かっていなければ女性として絶望してもおかしくないくらいの様相だ。


 だからだろうか。

 ボロボロなのに強き意思をこめた眼差しで暴走騎馬をしっかりと睨み、堂々と立ち向かう姿は美しく見えた。もしダイヤが彼女の今の姿を見ていたら惚れ直していたに違いない。尤も、肝心なところを見て貰えないところが、彼女の残念な所でもあるのだが。


「はああああ!」


 腰を落としランスの切っ先を暴走騎馬に向ける。そしてそれが接触する瞬間、全力でスキルを放つ。


「ランスパリイイイイ……きゃあああああああ!」


 ランスパリィで相手の突撃を逸らしてスピードを減衰させる。


 その作戦は無謀のように思えるが、実は有効な手段だった。

 ただしランスの強度とランスパリィのスキルレベルが最大限に高ければの話である。


 いずれも足りていない場合に何が起こったのか。

 彼女の愛用のランスは折れてしまい、突進を止められなかった彼女は思いっきり吹き飛ばされた。


 その勢いはすさまじく、衝撃だけで彼女の全身の骨が砕け死んでしまうほどだった。


 作戦失敗。


 ではない。


「おおおおおおおお!」


 彼女の文字通り身を挺した行動により、暴走騎馬の動きが一瞬止まりかけたのだ。

 その瞬間、望は騎馬に向かって跳び、項垂れていた騎士に向かってブレイブソードを振るおうとする。


『!!』


 演技だったのか。

 偶然にも気付いたのか。

 あるいは死の淵に瀕して反射的に動いたのか。


 もう死に体と思われた亡霊騎士の身体がぐらりと動き、跳んできた望に向かって大剣を横薙ぎにしてきた。


「彼女があそこまで体を張ったのに、私がここで退く訳が無いでしょう!」


 ここで防御行動を選んで攻撃せずに降りてしまったら、また騎馬は暴走を始めてしまうだろう。仲間が命をかけて作ってくれた最大の攻撃チャンスが潰れてしまう。


 勇者としてそんな情けないことが出来る訳が無い。


「うおおおお!」


 望は守備を考えずブレイブソードで騎士の首元を狙った。


 そして望の身体が大剣で真っ二つにされるのと同じタイミングで、ブレイブソードはソレを斬り落としたのであった。


 いんと望の命を懸けた一撃。

 それにより亡霊騎士はここに潰えた。

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