121. 素材集めデート 音編 前編
「この量は!?」
「
「誰に言ってるのよ。あんたのパートナーを舐めるんじゃないわよ!」
「そりゃあ頼もしいや。なら全軍撃破と行こうか!」
「ええ!」
Dランクダンジョン、閑寂な大瀑布。
周囲を巨大な滝で囲まれている屋外型フィールド。小さな陸地やマングローブ林のような箇所があるが、基本的には足首が浸かる程度の浅い水で覆われている中を進まなければならない。
常に浅瀬であるにも関わらずどう考えても水底に隠れきれない程の大きさの魔物が飛び出してきたり、滝で囲まれているのに水が溜まらず何故か水深が浅かったり、そして極めつけは大瀑布なのに何故か水の流れる音が全く聞こえない。
不思議なことだらけなのは、流石ダンジョンと言ったところか。
ダイヤと
ダイヤは爪を構えながら事前に
「(こいつらはアクアマーマン。三又の槍を構えた半魚人で、スキルは使って来ないけれど数で攻めて来る。武器は金属だけど体が水で出来ているから生半可な威力の攻撃じゃ水を掻くだけになっちゃう。威力高めの攻撃で体を構成する水を吹き飛ばすくらいじゃなきゃダメ)」
爪で軽くひっかく程度では全くダメージを与えられないだろう。爪を深く食い込ませて水を掻き出すくらいの感覚が必要だ。
「(全部で三十匹くらいかな。戦闘中に追加されるかもだから数は目安程度に考えておこう)」
そこまで考えた時、ダイヤ達を囲んでいたアクアマーマンに動きが見られた。水面を滑るように少しずつ前に出て囲みを小さくしようとしてきたのだ。
「ねぇダイヤ。私の方が多く倒したらキ……キスしてくれない?」
「え?やだ」
「即答!?何でよ!私達恋人同士でしょ!」
「だからだよ。そんな条件なくたってキスくらいいつだってするよ。だからさっさと終わらせよう」
「何してるの!さっさと殺るわよ!」
「う~ん、これもちょろいって言って良いのかな」
なんにしろやる気が出たなら十分だ。
キスのために、ではなく囲まれたまま身動きが取れなくなる前に速攻撃破すべくダイヤ達は前に出た。
「まずは一体!」
そしてそのまま勢いに乗って連続撃破を狙おうとしたのだが狙いは失敗した。
「うわっとっと!」
最初の一体がその両脇のアクアマーリンと連携して三又の槍を突き出してきたのだ。一本なら左右に避けながら前に出て攻撃が出来るが、三本だとその左右の避けるスペースを潰されているため背後に逃げるしかない。
「(これは結構厄介だね。さすがDランクダンジョン)」
ただの烏合の衆の集まりであればEランク上位のダンジョンにも出現する。こうして連係プレーをしてくるところ、やはり難易度は上がっている。
「レーザービーム!」
背後では
「(僕も負けてられないね)」
ダイヤには強力な一撃で囲いを突破するような技は無いが、驚異的な身体能力がある。
狙いのアクアマーマンが突き出してきた槍を爪で正面から受け止め、そのまま力任せに下方向へと押し込んだ。そしてその槍の上に乗るようにして強引に突破したのだ。左右のアクアマーマンの槍はダイヤが迂回することを想定した場所に突き出しているため当たることは無い。
「(武器だけが金属製だから可能な方法なんだよね!っと!)」
そのままダイヤはすれ違い様にアクアマーマンの胴体を思いっきり真正面から貫いた。体の水が大量に後方に押し出され、アクアマーマンは形を維持することが出来ずに崩れて行く。
囲いを突破したらここからはダイヤの独壇場だ。
ひたすら走り狙いを定めさせず、緩急をつけて一気に突撃してアクアマーマンの身体を全力で貫き通す。アクアマーマンは慌てて槍で攻撃しようとして来るが、それを突く頃にはダイヤは全く別の場所に移動している。
足首まで水で覆われているため動きが遅くなるはずなのに、そんなハンデを一切感じさせずダイヤは風のように移動しながらアクアマーマンを屠って行く。
「(きんもち良いいい!)」
敵の大軍の間を駆け抜けて乱獲する快感にダイヤは溺れていた。もちろん油断はしていない。
一方で
「行くわよ!」
今回の
長いロープの先端に棘のついた小さな鉄球。
「うおりゃああああ!」
凶悪な鉄球による回転攻撃。それに当たってしまえばアクアマーマンの身体の水などごっそりと削り取られてしまう。このダンジョンではアクアマーマンが大量に襲ってくることがあると知っていたから、この攻撃方法を準備していたのだ。
「一気に行くわよ!」
「なんか
「はぁ、はぁ、ど、どうよ!」
やがて敵の姿が見えなくなったことで
「お疲れ様。それって目が回らないの?」
「練習したから大丈夫よ」
「練習?」
「そう。誰かさんが難しい課題を出すから、気分転換に暴れてたのよ」
「わぁお。なんて傍迷惑な」
「人がいないところでやってたわよ!」
難しい課題、というのはダイヤが傷ついたとしても冷静に行動できるようになれ、という話だ。その解決案が思い浮かばず、彼女はストレス発散の八つ当たりも兼ねてこの回転攻撃の練習をしていたらしい。
「そういえばその課題ってどうなったの?」
「決まってるじゃない。そんなのこれから要練習よ!」
「これからなんだ」
「だってダイヤが死にそうになったら絶対に胸が張り裂けそうになるもん。それだけ好きだもん。すぐに慣れるなんて出来るわけないもん。だから焦らないで少しずつ頑張ることにしたのよ」
「うん、僕もそれで良いと思う」
ダイヤは別にすぐに答えを出せだなんて言っていない。ずっと先までついていくのならば、慣れなきゃ辛いよという話をしているだけなのだ。焦りすぎて今すぐにどうにかしなければならないと勘違いしていたことに気付いてくれただけで今は十分だ。
「私が慣れるまで死にそうにならないでよね。というか慣れてもダメ!」
「僕だって本当は安全マージンをたっぷりとって探索したいんだけどなぁ」
「でも誰かがピンチだったら無茶しちゃうんでしょ」
「あはは……」
「誤魔化さなくても別に良いわ。そういうダイヤを好きになったわけだし、ピンチに陥っても支えられるように強くなって傍にいるって決めたんだから」
そう笑顔で堂々と宣言する
「ちゅっ」
「!?」
体が勝手に動いてしまったのは仕方ないことだろう。
「な、な、な、何勝手にキスしてるのよ!」
「
「その条件は無しって言ってたじゃない!」
「うん、だから今のは嘘。本当はあまりにも可愛くて条件関係なくキスしちゃった」
「~~~~!」
アクアマーマン達を倒す前はとても物欲しそうで、そのために頑張ろうとしていたのに、いざそれを不意打ちでやられてしまうと感情がついていかないらしい。真っ赤になってあたふたしながらも唇の感触を思い出そうとするが、あまりにも一瞬すぎて思い出せない。
「も、もう一度!もう一度よ!」
「ダメ。そのもう一度は絶対に長くなっちゃうもん。ダンジョンの中での過度なイチャイチャは禁止」
「ダイヤばっかりしっかり味わってずるいー!」
「
「そ、そんな、自分からだなんて、恥ずかしいこと……」
「イベントダンジョンではあんなに積極的だったのに」
「あのことは忘れなさーーーーい!」
ダンジョン・ハイスクールで一番多いランクはDランク。つまりDランクダンジョンが一番混んでいる。そしてここ、閑寂な大瀑布は景色的にも探索練習的にも取れる素材的にも人気なダンジョンだ。
そんな大人気ダンジョンでイチャイチャしていたらどうなるか。
「チッ!」
「ここをどこだと思ってるんだ!」
「爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろエクスプロージョン!」
「バカップルは家から出て来るな」
「というか新入生にあんなに余裕で探索されると普通にプライドが傷つくんですけど」
いつか本当に爆破されても知らんぞ。
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