80. 新スキル紹介コーナー
最初にダイヤがスキルを覚えること。
それが彼女達がスキルポーションを使う条件として提示したものだった。
スキルポーションは一日に三つまでスキルを覚えることが出来る。最初に入手したスキルポーションは五つであり、まずはその中の三本をダイヤが使用することになった。
「うわ、躊躇くなく飲んでる」
「いちおくいちおくいちおく」
「躊躇わなさ過ぎて……きもい……」
三本一気に飲んでしまったダイヤを彼女達はドン引きしているが、ダイヤは全く気にせずに覚えたスキルを確認した。
「何々……まずは爪技。おお、スピの言うとおりだ」
爪技。
爪を武器として使う技スキル。ダイヤは格闘による接近戦が得意なため、同じく接近戦の爪技は扱いやすい。鋭い爪による攻撃だけではなく、硬度の高い爪甲を装備することで守備にも使えるところが便利である。性能の良い爪を装備すればレッサーデーモンとやり合うことも可能だ。
「次は……悪戯!超便利スキルきたああああああああ!」
これまでダイヤはいくつかのスキルを覚えたが、今回が一番の喜びようだった。
だがスキルの名前的に強スキルには思えず、桃花達はダイヤが喜ぶ意味が分からない。
「ダイヤ君何喜んでるの?」
「悪戯……強そうには思えませんね」
「変態に使う……つもりでしょ……」
テンションが爆上げ中のダイヤに対し、奈子のいつもの口ぶりが失言であったことに直ぐに気付かされることになる。
「じゃあそれでやってみよう!風の悪戯!」
「きゃっ!」
「!?」
どこからともなく風が吹いてきて、桃花と奈子のスカートがふわりとめくれ上がったのだ。
なお、どちらもインナーを履いていたので下着が見えてしまうことは残念ながら無かった。
「ダ・イ・ヤ・君!」
「変態!変態!変態!変態!」
真っ赤になった二人にたっぷりと怒られてから、ダイヤは改めて悪戯スキルについて説明した。
「悪戯スキルはトラップの派生元って言われてるけど、実は複数のスキルに派生するスキルなんだ」
「複数のスキルに派生?」
「落とし穴ならトラップ、風の悪戯なら風系スキル、不快な音を聞かせる悪戯は音系スキル、と言った感じで悪戯スキルのどの効果を使うかで新たに別の派生スキルを覚えられる。進化じゃなくて派生だから悪戯スキルは消えないし、頑張れば全部の派生先のスキルを覚えることも出来るよ」
「すごい……けど、悪戯スキルってそもそも何が出来るの?」
「悪戯に属することならなんでも」
「え?」
「例えばこんなことも出来るよ」
ダイヤが目を瞑った直後、桃花の肩を誰かが叩いた。
奈子か芙利瑠かと思い素直に後ろを振り向くと。
ふに。
指らしき何かが頬に触れる感触があったのだった。
「…………これ、使えるの?」
「もちろんだよ! それぞれの効果は低いけど、使いようによってはとても便利なんだよ! たった一つのスキルで複数のことが出来るだなんて凄い珍しいし、最高のスキルを覚えたよ!」
「そ、そうなんだ……」
桃花はまだ悪戯スキルの良さにピンと来ていないようだ。
「では、最後の一つは何だったのでしょうか」
「…………」
芙利瑠の問いに、上機嫌だったダイヤの動きがピタリと止まった。
「ダイヤ君?」
「怪しい反応」
桃花や奈子が珍しく言い淀むダイヤの反応を訝しむ。
「最後のは戦闘に関係ないスキルだから気にしないで」
「え~」
「気になりますわ」
「えっちなスキルだ……」
普段であれば奈子の言葉は戯言と受け取られるが、今回に限ってはダイヤの怪しい反応からその可能性もあるのではと彼女達は考えた。
「ダイヤ君に質問です。男の子が一人と女の子が三人います。男の子がえっちなスキルを手に入れたかもしれないと思った女の子達の気持ちを答えなさい」
「わくわく」
「ダイヤ君!」
「うう……桃花さんはわくわくしてるでしょ」
「ダ・イ・ヤ・君!」
たとえそうだとしても、この場でそんな恥ずかしいことを言える訳が無いのである。
「その反応。まさか本当に卑猥なスキルなのですか?」
「卑猥って言わないで。いや、人によっては卑猥に思えるかもしれないけど……」
「やっぱり!」
「木夜羽さん嬉しそうに後退らないで!」
「う、う、嬉しくないもん!」
なまじダイヤに対する好感度が低くないため、かといって恋人になっているというわけでもないため、どう反応して良いか分からない三人だった。
「はぁ……じゃあ言うけど、変な風に受け取らないでね」
このままではらちが明かないと感じたダイヤは諦めて三つ目のスキルを伝えることにした。
「三つ目のスキルはハーレムだよ」
「…………」
「…………」
「…………」
周囲の気温が氷点下になったのは言うまでも無かった。
ちなみにハーレムスキルは五人以上の異性から想われることを条件に覚えられるスキルと言われている。
主な効果はハーレム対象の異性へのバフ。正式にハーレムに入っていることが必要であるため、まだダイヤはこのスキルを誰にも使うことが出来ないのであった。
その後は桃花がスキルポーションを飲み、テンションアップと守りの祈りを覚えた。飲む前は高価なスキルポーションを手にかなり葛藤していたが、覚えたスキルを確認すると大喜びでダイヤに抱き着いた。
「ダイヤ君!ありがとう!」
「どうしたしまして」
柔らかな感触が心地良いが、桃花は単に感極まっただけでは無く狙ってもいた。感謝の気持ちを自らの身体で伝えようと考える辺り、彼女がダイヤのハーレムに入った暁には……これ以上は止めておこう。
スキルポーションを五つ使い切ってしまったので、不足分はDランクの魔物を倒しながら収集した。幸いにもダイヤが悪戯スキルを有効活用してサウンドウェイブケイブバットの効率的な倒し方を確立したため苦労せずに集められた。
まずは桃花に三つ目のスキルを覚えるために使ってもらった。
「なんで私も悪戯スキル覚えてるの!?」
「ナカーマ」
「納得いかないー!」
なんてちょっとした騒ぎを経由しつつ、次は芙利瑠の番だ。
「じゃあ金持さん。どうぞ」
「ぴゃあ!」
桃花以上に緊張し、中々使う決心がつかなかったようだけれど、どうにか三つのスキルを覚えられた。
「わたくしのなかにいちおくいちおくいちおくが」
スキルポーションを使用した当初は混乱していたけれど、徐々に冷静さを取り戻し、覚えたスキルを確認するとこれまた有用なものだった。
「一つ目は金銭交渉ですわ」
「おお~、お金系スキルの上位スキルじゃん。凄い凄い!」
金銭交渉は金銭を支払うことで効果を発揮するスキルである。効果の内容は支払った金額に応じて異なり、魔物に逃げて貰ったり行動を封じたりデバフをかけたりと相当便利だ。ただし支払う金額が最低でも七桁必要であり、まさにお金持ち用のスキルとなっている。
「でもお金がないと意味無いですわ……」
「…………」
「…………」
「…………」
たとえ覚えた所で決して使うことが出来ない。しかも芙利瑠が本当にお嬢様だったならば使えると思うとより虚しさが募ってしまう。流石のダイヤや桃花も気まずくて弄ることも出来なかった。
「つ、次は何かな!」
どうにか空気を変えようと桃花が慌てて話を進めようとした。
「次は淑女ですわ」
淑女スキル。
中々に漠然としたスキル名だが、基本的には精神異常耐性系のスキルだ。淑女らしからぬ行動を強いられる異常を防ぐことが可能となる。
「これは不要ですわね。淑女とはスキルに頼ってなるものではありませんわ」
「なにそれ超格好良い」
「優雅と言って頂きたいものですわ」
ドレスは全身がくすんでいてボロボロなのに、堂々と淑女の在り方を述べる彼女の様子は不思議と優雅に感じられた。
「じゃあそんな優雅な金持さん。最後のスキルを教えてくださいな」
「ぴゃあ……」
優雅大崩壊である。
テンションが一気にダダ下がりする様子は、先ほどのダイヤとあまりにも似通っていた。
「ふりちゃん、言いたくないなら言わなくて良いんだよ」
「僕との扱いの違い。でもしょうがないか」
女性が隠したいことを暴くだなんてことはダイヤには出来ないのだから。
「いいえお伝えしますわ。わたくしだけ黙っているなんて淑女ではありませんわ!」
しかし芙利瑠は桃花達の気遣いを良しとせず、恥ずかしくとも公開する宣言をしてしまった。先程ダイヤのハーレムスキルを聞き出してしまった負い目を感じているのだ。
「(やっぱり金持さん、めっちゃ良い子だ)」
ぐんぐんとダイヤの好感度が上昇する中、彼女は意を決して三つ目のスキルを説明した。
「三つめは鈍器スキルですわ!」
「あ~」
お嬢様が鈍器スキルを覚えるだなんて、あまりにもイメージとはかけ離れているから恥ずかしかったのだろう。
「ごめん。僕のせいだよね」
「謝らないでくださいませ。使うと決めたのはわたくしですわ。後悔など致しておりません」
ダイヤは芙利瑠にバールのようなものを貸し、芙利瑠はそれを使って敵と戦っていたのだ。元々の相性もあったのだろうが、それがスキルを覚えてしまった要因となってしまった可能性はあるかもしれない。バールのようなものを使っていなければ、お嬢様らしい薙刀スキルや細剣スキルなどを覚えていたのだろうか。
「それに攻撃スキルを覚えられて良かったですわ。これで前衛を貴石さんだけに任せなくて良くなります」
「金持さん、僕を堕とそうとしてる?」
「ぴゃ!?」
時折感じられる淑女のような漢らしさのような雰囲気にダイヤの好感度上昇は留まるところを知らない。
「わ、わわ、わたくしはべつにそのような」
「こ~ら~、ふりちゃんを困らせないの」
「は~い」
ぷしゅーと真っ赤になってしまった芙利瑠。彼女の耳元で桃花はダイヤに聞こえないように何かを呟く。すると彼女の顔は更に赤くなり桃花に寄りかかるようにしてどうにか立っている状態になってしまった。一番困らせているのは桃花である。
「(気になるなぁ)」
もちろん先ほどと同様にそれを暴こうとすることなど出来る訳もなく、ダイヤは仕方なく最後の一人にターゲットを向けることにした。
「木夜羽さんはどうだった?」
奈子にもスキルポーションを渡してあり、すでに彼女は使用済みだった。
「…………」
「木夜羽さん?」
ダイヤに話を振られても奈子は反応が無く難しい顔をして自分のスキルを眺めていた。
「(そういえばさっきからずっと静かだったけど、どうしたんだろう)」
芙利瑠達との会話中は一歩退いているだけかと思ったが、自分のスキルが気になってそれどころではなかっただけらしい。
「木夜羽さん。木夜羽さーん」
「…………」
何度も声をかけるがやはり返事が無い。
表情的には考え込んでいるだけで悪い結果では無さそうだ。だからだろうか、桃花が悪い顔して奈子の背後に回った。
「(そういうこと考えるから悪戯スキルを覚えちゃうんだよ)」
「(うっ!)」
だがダイヤに小声でそう指摘されて脇腹へ伸ばした手を引っ込めるのであった。
仕方なく奈子が落ち着くまで待っていたら、彼女はふぅと大きなため息をついて思考が現実世界に戻って来た。
「分からない」
「何が?」
「!?」
独り言のつもりだったのに返事が来てびっくりしたのだろう。ようやく彼女は周囲の様子が目に入った。そして自分が皆を待たせてしまっていたことに気付き、慌てて何のスキルを覚えたのかを口にした。
「静の奇跡、恥の奇跡、妄の奇跡の三つを覚えたけど……意味が分からなくて……」
「あ~奇跡シリーズは種類が膨大で分かりにくいって言われてるもんね」
そもそもミラクルメイカーの数自体が少ないから正確なことは分かっていないが、奇跡は百種類以上あるのではと言われている。
「ダイヤ君でも分からないの?」
「ミラクルメイカーはそれぞれが独自の奇跡を持っているらしいから、覚えても意味無いんだよね」
たとえ覚えた所で相手のミラクルメイカーがどの奇跡を持っているかなど聞かなければ分からない。ゆえにミラクルメイカーについてはダイヤは詳しいスキルの内容を覚えなかった。
「静と恥と妄かぁ。名前からだと効果が想像しにくいよね。厨二詠唱考えるの大変そう」
「厨二って……言わないでよ……変態……」
「じゃあ変態らしく聞かせてもらうけど、よく恥ずかしがらずに恥の奇跡って言えたね」
「え…………!!!!!!!!」
途端に奈子の顔が瞬間沸騰機と化した。スキルの効果を考えるのに必死で、気恥ずかしいスキル名だということが完全に頭から抜け落ちていたのだろう。
「馬鹿!変態!恥ずかしくないもん!うわあああああああん!」
ガチ泣きする奈子に向かって、相応しいスキルだね、だなんて追撃をするほどダイヤは鬼畜では無かった。
三つの追加奇跡についてはまだイメージが湧かないため、覚えたけれどしばらくは使えないだろう。
ーーーーーーーー
以下は現時点での四人のステータスです。
装備品は除きます。
名前:貴石 ダイヤ
職業:精霊使い
レベル:1
スキル:
スラッシュ レベル1
スロー レベル1
スラスト レベル1
トーチ レベル1
製薬 レベル1
格闘 レベル1
爪 レベル1 new!
不屈 レベル1
悪戯 レベル1 new!
ハーレム レベル1 new!
名前:李茂 桃花
職業:精霊使い
レベル:6
スキル:
スラッシュ レベル2
スロー レベル1
スラスト レベル2
トーチ レベル3
テンションアップ レベル3 new!
守りの祈り レベル1 new!
悪戯 レベル1 new!
名前:金持 芙利瑠
職業:??? ※本編未発表
レベル:19
スキル:
鈍器 レベル2 new!
スラッシュ レベル3
スロー レベル2
スラスト レベル1
トーチ レベル6
??? レベル1 ※本編未発表
銭投げ レベル1
金銭交渉 レベル1 new!
淑女 レベル4 new!
名前:木夜羽 奈子
職業:ミラクルメイカー
レベル:11
スキル:
スラッシュ レベル1
スロー レベル1
スラスト レベル1
トーチ レベル4
炎の奇跡 レベル1
盾の奇跡 レベル1
癒の奇跡 レベル3
恥の奇跡 レベル1 new!
妄の奇跡 レベル1 new!
静の奇跡 レベル1 new!
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