60. 修学旅行の夜とキャンプが合わさったみたいで最高だね!
「おいひー!もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
「ダイヤはホント旨そうに喰うな」
「そんなに旨いか?普通じゃね?」
「これで中身がアレじゃなきゃ微笑ましいのに」
クラスメイト達に見られながら満面の笑みでカレーライスを頬張るダイヤ。
ここは宿泊先のコテージ。
一棟に二十人前後も宿泊可能な大型コテージだ。
男女別で泊まる中型コテージとクラス全体で泊まる大型コテージを選択可能であり、『精霊使い』クラスは大型コテージを選択した。決めたのはダイヤではなく女子達で、クラス全体で今後の話をしたいという理由もあるが、『精霊使い』クラスの男子で女子に何かをする勇気がありそうな人はダイヤ以外にいそうにないというのも決め手だった。
「お金が無くてまともなご飯を食べてないって言ってたもんね」
桃花も元通り自然にダイヤに話しかけることが出来るようになっており、普通に楽しそうだ。
「確かにもぐもぐそうだけどもぐもぐ本当にこれもぐもぐおいしいよね?」
「食べながら話すな」
「いだい!」
何故か隣に座っている蒔奈に頭を
オリエンテーリングで少しは扱いが分かったはずだからダイヤが暴走した時に止めてくれとクラスメイトにお願いされているのだ。
「美味しいのは分かるにゃん」
「自炊するの林間学校みたいだわん」
カレーは彼らが協力して作ったものであり、そのキャンプっぽさ補正が美味しく感じさせているのだろう。その補正を感じられるか否かでカレーの評価が二分されていた。
食べるのに夢中になっているダイヤはさておき、クラスメイト達は自作カレーに舌鼓を打ちながら合唱について振り返る。
「それにしても『音楽』クラスヤバかったな」
そう思い返した朋に、咲紗達カースト上位組が声をあげて同意する。
「あんなの勝てるわけないっしょ」
「専門家の集団とかズルすぎ」
「あ~あ、良い線言ってると思ったんだけどな」
トップバッターだった『精霊使い』クラスは、終わった後に他のクラスの合唱の様子を確認した。
するとライバル視していた『音楽』クラスのレベルがあまりにも高く、こんな相手に勝てる訳が無いと完敗を察したのであった。
「…………だがスタンディングオベーションにはなってなかった」
暗黒の言う通り、明らかに『精霊使い』クラスよりもレベルが高かったのに、観客は座って普通に拍手していただけだった。
「『音楽』クラスだから皆厳しめに聞いちゃったとかかな。私達の場合、予想以上に頑張ったから思わず立っちゃったとか」
「確かにそれはありそう」
桃花の推測に向日葵が納得する様子を見せるが、答えなんて分かるはずが無い。
彼らも答えを求めているわけでは無く、感じたことを口にしたかっただけなのでそれで良いのだ。
「そ、それより俺は『英雄』クラスが良すぎた気がする」
「ケッ!強い上に歌まで上手いとか反則じゃねーか!」
暗い男子組も自然に会話に混ざれるようになっている。
咲紗の教育のおかげだろう。
「もぐもぐ。はぁ~美味しかった。『英雄』クラスは望君と
特に
それによりバラバラだった『英雄』クラスの女子達にまとまりが生まれ、望のリードもあり合唱が仕上がったのだ。
「他にも上手いクラス沢山あったし、こんなんで勝てるのかな……」
思わずポツリと不安を漏らしてしまったのは向日葵だ。
彼女の言葉に影響されて食卓が暗くなりそうなところ、剣がストップをかけた。
「私達は出来ることをやり尽くしたのだ、そういう心配はよそう」
やれることをやった上でスタンディングオベーションまで貰ったのだ。
ここで不安になることに意味など無い。
「そうそう。ビビるなんて情けねーこと出来るかよ」
「はぁ?ビビってなんか無いし。あんたこそビビってるから言い聞かせてるだけでしょ」
「俺がビビるわけないだろ!」
「どうだか。始まる前にあんなに震えてたくせに」
「お前の方が震えてただろ!」
「震えて無いし。それにこっち見ないでよ、キモイ」
「てめぇこそ俺の方見てたから震えてたって言ってんだろ!」
「やっぱり震えてビビってたんじゃない!」
「だからビビってねーって言ってんだろ!見間違えだ!」
これまでクラスメイトに迷惑がかからないように抑えていたのに、ついにまたケンカを始めてしまった。
クラスメイト達は『仕方ないなぁ』といった雰囲気で様子を見守り、キリの良いタイミングで咲紗が止めに入った。
「はいはい、そこまで」
「がるるる」
「がるるる」
突然のケンカだったけれど、不思議と空気は悪くなかった。
お互いに相手を本気で嫌って攻撃している雰囲気が無かったからだろう。
「(空気が重くなりそうだったから発散させるために朋が敢えてケンカを仕掛けたのかな)」
そしてその重くなる原因を作りかけた向日葵が敢えて乗ったのではないか。
ゆえに作られたケンカとなり微笑ましい感じで終わったのかもしれない。
「(だとすると、この二人やっぱり相性は悪くないんじゃ)」
阿吽の呼吸でケンカもどきを開始するなど、最早パートナーではないか。
ケンカップルへの道はそれほど遠くないのかもとダイヤは内心で親友にエールを送った。
「馬鹿なことやってないで、そろそろ片付けましょう」
咲紗の合図と共に片付け組が席を立ち、台所へと向かうのであった。
ーーーーーーーー
「わぁ、色っぽい!」
「お前ジャージにも欲情すんのかよ」
「風呂上がりの女子に欲情しない男子なんていないよ」
余計なことを言うなと、男子達は一斉に顔を逸らした。
「はぁ……馬鹿ばっかね。こんなのの何が良いんだか」
「そう言いながら僕達の湯上り姿を堪能する草履さんであった」
「変なナレーション入れるな!」
余計なことを言うなと、一部の女子達は一斉に顔を逸らした。
どっちもどっちである。
「皆、しっかり部屋には鍵をかけるのよ。でないとこの変態に襲われるわよ」
「
「俺らはするみたいな言い方やめろって!」
流石に今度は朋が大声で抗議した。
女子も冗談だとは分かっているが
「まぁまぁ、風呂上りにカッカしないの。せっかくさっぱりしたのにまた汗かいちゃうよ」
「誰のせいだ誰の!」
「久世気君かな」
「……お、俺!? じゃなくて、ケッ!なんで俺なんだよ!」
「(やっぱりあの口癖わざとだったんだ)」
唐突に流れ弾を当てに行ったら口癖を忘れて慌てる巨星を見れてほくそ笑む。
ご飯を食べ、風呂からあがり、オリエンテーリングでたっぷり歩いた疲れと、緊張を乗り越えて必死に歌った合唱の疲れをまったりと癒す時間だ。これ以上はテンション高く会話することも無く、リビングに散らばった各々が静かに時間を過ごしている。
椅子やソファーの数が足りていないため、床に座ったり寝転んでいたりと各自がリラックスできる体勢で軽いおしゃべりをしながら夜の落ち着いた時間を堪能していた。
ふっ、と偶然全員が黙り込み静かになった。
スマDを弄ったり、ぼぉっとどこかを見つめてたり、髪を弄っていたりと、誰も何も言わずに心を休めている。
いや、違う。
クラスメイト達は牽制し合っていた。
誰がダイヤへの『相談』を切り出すのかと。
先陣を切ったのは、咲紗だった。
「なぁ貴石。聞きたいことがあるんだけど」
「何かな?」
スマDを弄って何かを考えていたダイヤに向かって率直に質問した。
「私達って転職すべきなのかな?」
「え?」
明日のバトルロイヤルの話か、あるいはもっと単純な質問だと思っていたのだろう。
予想外に真面目そうな質問にダイヤは素で驚いていた。
「(もしかして、皆もそれを聞きたがっているのかな)」
クラスメイトの顔色を確認すると、全員が興味津々といった感じだ。
その様子から彼らがダイヤに『精霊使い』の今後についての話を聞きたかったのだと理解した。
「貴石が精霊使いの可能性について色々と暴露しちゃったでしょ。それで色々なクランから誘われるし、でもこれまでは転職することしか頭に無かったし、転職しないことのメリットがどれだけあるか分からないし、どうすれば良いか分からなくなっちゃったのよ」
大量の情報がいきなり降り注いできて、それが精霊使いの地位を向上させられるものとは分かってはいるが、具体的にそれらをどう扱えば良いのかが分からず困っている。
他者から求められている精霊使いのまま頑張るか。
それとも当初の予定通りに転職を目指すべきか。
自分達の将来を大きく変える決断になり、迂闊には答えを出せなかった。
「…………」
「…………」
ダイヤは咲紗の質問を受けて考え、クラスメイトはその答えを静かに待つ。
真剣に考えてくれていることが分かるからこそ、放たれる答えを真剣に受け止める心構えをする。
そうしてクラスメイトが息を呑む中、ダイヤが答えを口にした。
「皆が何を目指すのかによって違うかな」
人それぞれ。
あり触れた答えにクラスメイト達は拍子抜けする。
それと同時に、転職したら良いかと聞かれたらそう答えるしか無いだろうなと納得も出来た。
「例えば剣さんの場合」
「私か?」
「うん。剣さんは剣王という職業に就きたいって言っていた。それなら転職一択だよね」
具体的な職業を目的としているのであれば、このまま精霊使いでいる必要は全くない。
むしろ転職しなければ夢は叶わないのだ。
それなのに藍子は何を悩んでいるのか。
「だが精霊使いのままでも剣王と同等の技術と強さを得られるのであれば、必ずしも職業に拘る必要は無いのではと思うとな……」
「職業としての剣王じゃなくて、剣王に匹敵する強さが得られるのであれば満足できるかもしれないってことなんだね」
「うむ」
形に拘るのではなく本質に拘る。
武術家の藍子らしい悩みだった。
「精霊使いのままで剣王と同等の技術と強さを得る。つまりスキルポーションのことを気にしているのかな?」
当然のことだが、精霊使いと剣王は全くの別物だ。
普通に考えれば同じ技術や強さを得ることなど考えられない。
しかしその常識を覆しかねないスキルポーションという存在が発見されてしまった。
スキルポーションを使用することで精霊使いのままでも剣王が使えるスキルを覚えることが出来るのでは無いか。
そう考えると、剣王に転職するメリットは確かに無い。
だがそれはスキルポーションの正確な情報を知らないからこその勘違いだった。
「じゃあまずはスキルポーションの鑑定結果について教えるね」
ダイヤは俯角からスキルポーションを鑑定スキルにかけた結果を聞いてあったのだ。
「スキルポーションは一日に最大三つまで、その人に適性があるスキルを覚えられるアイテムだよ」
「つまり私が使用すると剣系のスキルを覚えられる可能性が高いということか」
「うん」
正確には努力していても適性が無いケースもあるのだが、幼い頃から剣術に打ち込んできた藍子に才能が無い可能性もあるかもしれないなどと敢えて告げて不愉快にすることはしなかった。
「ならば転職は不要ではないのか?」
あらゆるスキルを覚えられる程に便利なものでは無いが、大得意の剣系スキルを覚えられるのであれば、いずれ剣王関連のスキルも覚えられるのではないか。
そう思ったのだが、ダイヤははっきりと首を横に振った。
「職業は適性の無いスキルも覚えられるメリットがあるんだ」
それこそが転職の最大のメリットと言っても過言ではない。
「例えば剣士は剣に関するスキルを覚えられるけれど、攻撃技は得意だけれどパリィみたいな防御技が苦手って人は結構いると思うんだ。そんな人でも剣士になれば苦手な防御系スキルも覚えて使えるようになる。剣王に就くことが出来れば、剣王が使えるスキルの中で苦手なものがあったとしても覚えられて使えるようになるんだ」
尤も大半のスキルに適性が無ければその職業には就けないという制限はあるが、藍子に関しては現時点でも十分に剣士系職業に適性があり転職が可能だ。
「ならば剣王で覚えられるスキル全てに適性があれば転職する必要は無いということだな」
「それはそうだけど、阿修羅斬りとか覚えられるの? 武術系のスキルはスキルなしでもほぼ使えるようになることが適正じゃないかって僕は思ってるんだけど」
「…………修練を積めばいずれは」
「その『いずれ』に至るまでは相当な時間がかかるよね。剣王の全てのスキルを果たして生きている間に全部覚えられるかな」
「…………」
剣王のような上級職は生身で習得するには難しいスキルを覚えられる。
スキルであっても人間が自力で実現不可能な武術技は覚えられないという大前提があるため、努力すれば自力で習得も可能だが、それには莫大な時間がかかるだろう。
ゆえに余程のこだわりが無い限りは職業の力を借りて剣王になる方が自然なのだ。
「なるほど、理解した。ありがとう、スッキリしたよ」
「どういたしまして」
ダイヤの答えに満足した藍子は自らの道を決められたようだ。
だが他のクラスメイトはまだその道を見つけられていない。
絶対に就きたい職業がある場合はそちらを選ぶべきだということは理解したが、まだどうしたいか揺れている人には決定的なメリットと言えないからだ。
いや、職業のメリット云々よりも、そもそも比較対象となる『精霊使い』の強さが曖昧過ぎて判断出来ない。
その判断をするための質問を次にしたのは暗黒だった。
「…………貴石。スキルポーションを使えば精霊使いでも適正スキルを覚えて強くなることは分かった。だがスキルポーションはDランクの魔物を倒さなければ入手できないのだろう。そこまではどうやって強くなれば良い」
出来ることならば今すぐにでも使ってみたいスキルポーション。
しかしそれには自分達精霊使いがDランクダンジョンに入り魔物を狩らなければならず、容易には入手できない。島の外ではフリーの精霊使いが
となると強い人にサポートをお願いしてもらい、パーティーを組んでDランクの魔物を倒すといったことが必要になるが、頼った見返りとしてスキルポーションの大量確保などを依頼されてしまいそうであるし、そもそも暗黒のように見返したい他者の力を借りるなんてとんでもないという考えの人もいる。
「…………それにスキルポーションでスキルを覚えられるのは他の職業も同じ話だろう。他の職業は適性が無いスキルを追加で覚えられるのだから、適性があるスキルしか覚えられない精霊使いは格落ち感がある」
剣士がスキルポーションを飲み、本来は覚えられない槍スキルを覚えるなんてことも適性さえあれば可能なのだ。となると暗黒の言うとおりに、スキルだけを考えたのならば精霊使い以外の職業に転職した方が戦いの幅は広がるだろう。
必要なのは精霊使いならではの強さ。
それはもちろん『精霊』だ。
「スピのこと覚えてる?」
Dランクの天使を圧倒したメイド服の女性精霊。
何度も例の配信を見直したクラスメイトが、その存在を知らない訳がなかった。
「スピって実はFランクダンジョンのボスドロップとして出現して、最初はこのくらい小さかったんだよ」
確かにスピは最初幼女であり、幼女に性的に迫られることでダイヤは困っていた。
「しかも僕が腕を掴まれたら振りほどけない程に力が強かったんだ」
幼女のままでも強さの片鱗が見えていた。
「彼女を成長させるために経験値を与えたらあそこまで強くなったんだ」
つまり精霊を育てて成長させればとてつもない戦力になってくれるということ。
だがそれには大きな問題がある。
「…………人型精霊の再現は失敗していると聞いたが」
他の人がどれだけ試そうとも、言葉を話す人型精霊はドロップしないのだ。
「その代わりに動物精霊はドロップするんだよ。だからその子達に協力してもらえば良いんだ」
これは俯角から入手した調査結果であり、まだ噂レベルであり正式には公開されていないため暗黒達も確信をもてていないことだった。
例えば狼なんかをドロップして懐かれたのであれば、育てればフェンリルとでも呼びたくなるくらいの強いパートナーになる可能性を秘めている。
「強い精霊に仲間になってもらって、ドロップアイテムを操作できて、自分自身もスキルポーションで強化できる。どう?精霊使いってかなり凄い職業だと思わない?」
「……………………承知した」
これまで曖昧だった精霊使いのイメージが、ダイヤから正確な情報が伝えられたことで明確になった。迷っていたクラスメイト達の顔にも理解の色が浮かび、相談して良かったと安堵の空気が漂い出す。
ここまで説明してくれたならば後は自分で答えを見つけたい。
そう思いたかったのだが、まだ一つだけ相談に乗って欲しいことがあった。
「ねぇ貴石君」
「何かな?桃花さん」
桃花は精霊と仲良くなれることが楽しそうと思っていたため転職する気は最初から無く、転職とは別のことを相談したかった。
「クランに沢山誘われてるんだけど、どうすれば良いのかな?」
精霊使いのドロップ操作やスキルポーション狙いの勧誘がひっきりなしにやってくる。
今でさえそうなのに、この合宿を終えてクラン勧誘が解禁されたらどうなってしまうのか。
強引な手段をとってくるクランも出てくるのではないかと不安だったのだ。
「危険な目に遭う前にどこかのクランに決めちゃった方が良いのかな……」
精霊使いを金が生る木としか見ていない人も多く、しかも今までの考え方を変えられずに蔑み続け、奴隷のように作業を強制してくるようなこともあるかもしれない。
そうならないクランを早く見つけて入り、後ろ盾となって守ってもらうべきでは無いかと桃花は考えたのだ。
「ジャジャーン!こんなこともあろうかと」
ダイヤはスマDを掲げると、ある物を空中ディスプレイに映し出した。
「クランの名前が沢山書いてあるみたいだけど……これは?」
「僕が作ったクラン安全度リスト」
「え!?」
まさしく丁度欲しいと思っていた情報では無いか。
島の外で
「僕はここに来る前に既に自前のクランリストを作ってたんだけど、それに今回の件を踏まえた安全度を追加したんだ。信頼できる知り合いの人にチェックをお願いしたから、あまりズレてはいないと思うよ」
そう言うと、ダイヤはクラス全体に向けてそのリストを送付した。
ちなみに信頼できる人というのは俯角である。彼女はダイヤから様々な情報を教えて貰う代わりに、全面的にサポートしてくれていた。
「おいおい。こんな貴重な情報、タダでばらまくだなんてどうかしてるぞ!」
あまりのことに朋が思わず注意してしまうが、ダイヤはそれを軽く笑い飛ばした。
「あはは、お金なんかより皆の安全の方が大事だよ」
『…………』
その言葉にクラスメイトは黙ってしまう。
リストにはクランの特徴や入った時のメリットデメリット、主なメンバーの性格や注意人物、どの程度後ろ盾になり得るか、などかなり細かい情報が書かれている。
これを調べるのにどれほどの時間を費やしたのか。
それを考えると少なくとも万単位で取引すべき情報だ。
しかしダイヤはクラスメイトのためにそれを無償で提供してしまったではないか。純粋無垢な、本心からクラスメイトのためを思っているかのような雰囲気で。
「ありがとう、ダイヤ」
「ありがとう、感謝するわ」
「…………役立てよう」
「サンキュな」
「ケッ!ありがとな!」
次々とお礼を伝えるクラスメイトだが、こんなに貴重なものを貰いっぱなしだなんてことは許せず、絶対に何らかの形でダイヤに報いようと誓った。
「どう致しまして。それより気を付けてね。そこに書いてあるのは完璧じゃないから。特にお金が関わると人の心ってのは変わっちゃうからね」
安全なクランだと思っていたところが精霊使いをメンバーに入れたことで豹変してしまう可能性は普通にありえる。あくまでも参考程度にすべきだ。
そしてもう一つ、ダイヤは言っておかなければならないことがある。
「それと、色々と不安なのは分けるけど、僕はやっぱり何処に入ったら楽しいかで選ぶべきだと思うんだ」
それは職業も、クランも、どちらもだ。
「なるべく安全な道が良いとか、目標を達成できるなら危険なところでも良いとか、のんびりしたいだけとか、色々な考え方があると思うんだけど、せっかくの学生生活を楽しまないだなんて勿体ないよ」
そしてその『楽しい』が日々を豊かにしてゆく。
何かに怯えて逃げるように暮らしてしまっては、心が擦り減りいつかぽっきりと折れてしまうだろう。
そうならないための生き方を考え、一緒に笑い合ってエンジョイしたい。
「それじゃ強くならないとな」
「だね」
誰かがそう呟き、誰かがそう同意した。
他者からの攻撃に不安にならず目の前の日々を楽しむためには、外部からの余計な手出しを余裕で躱せる程に強くならなければならない。
この日彼らは、強さを求めて前に進むのだと決心したのであった。
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