異世界行ったら厨二病許されますか?

月神 奏空

くくく、ようやく我と契約する気になったか

 魔王の脅威に対抗するべく、アルトレイア王国は英雄召喚の儀を執り行う運びとなった。

 魔法陣を囲み八人の魔導師が魔力を注ぎ込む。

 眩い光に包まれて、静寂を切り裂く笑い声が響いた。


「待ちくたびれたぞ、人間共!!」


 魔法陣の中央にそれはいた。


「ふむ、やはりこの世界は強大なる我が力を解放するには脆すぎるか」


 憂いに満ちた様子で包帯を巻かれた右腕を一瞥し、漆黒は深いため息を吐く。

 魔導師が水晶玉を持って漆黒に歩み寄ろうとする。


「寄るな!! 貴様に我の放つ瘴気に耐えうる力はない!!」


 瘴気、という言葉に皆ざわつき始める。

 世界を混乱に陥れたもの、その一つが瘴気と呼ばれる穢れた力の出現。


「な、何故英雄から瘴気が……」

「あの出で立ち……まさか魔王軍の……」

「陛下をお守りせねば……」


 魔導師が、騎士が、各々武器を手に警戒する。


「そう身構える必要は無い。力の根源たるこのフォース様にかかれば何も恐るることなどn」


「鑑定結果、出ました!!」


 水晶玉を持った魔導師が漆黒に包まれた男の言葉を遮って叫ぶ。


「ステータス、投影します」


 ボードに映し出されたその鑑定結果に、一同は唖然とする。


 そして。


──────────────


名前:チカラ・タナカ


年齢:14


性別:男


種族:人間


レベル:1/1


固有魔法:無


武具適性:無


戦闘能力:0


──────────────


「「「「雑魚じゃねえか!!!!」」」」


 こうして、力の根源たるフォース様(笑)は多少の資金を渡されて王宮から追い出されてしまいましたとさ。



「と、いうことで。今日からここが我が城だ」


「どう見てもオンボロの安宿ですけど」


 案内人兼護衛として選ばれた女性騎士、アンジェリカはフォース様(笑)に冷ややかな目線を送る。


「そう嘆くことは無い。我と契約したからにはお前に危機が訪れることはないのだから」


「明らかに私が守る方ですけど」


「さあ行くぞ。まずは手始めにドラゴンを手懐けてみせよう」


「それはどう考えても逝くんですよ」


 話の通じないフォース様(笑)にアンジェリカはそれはそれは深いため息を吐いた。


「う、ぐ……ま、マズい……」


「はいはい、お腹なんて押さえてどうしたんですか」


「我が肚に宿いしインセクタが嘆きの歌を奏で始めてしまう……っ」


 ぐぅぅううきゅるるるるる。


「……サンドイッチならありますけど」


「我に供物を捧ぐ栄誉をやろう」


 アンジェリカは心底呆れたため息と共にバスケットからサンドイッチを差し出した。

 まるで初めて見るとでも言うようにじっくり観察してから恐る恐る口に運ぶフォース様(笑)。


「この供物からは溢れんばかりのマナを感じるぞ」


「美味しいですかそうですかそれはよかったですね」


 アンジェリカは感情の乗らない声でそう言って剣の手入れを始める。

 腐っても英雄として召喚されている以上、彼を蔑ろにするわけにはいかない。

 彼に何かあればそれは王国の責任となるのだから。

 敬愛する王のため、アンジェリカは命を賭してでも守り抜くつもりである。


「それでフォース様(笑)」


「何やら語尾に悪意を感じるのだが」


「これからどうなさるおつもりですか」


「決まっておろう。まずはドラゴンをt」


「却下です」


「我が命令に従えぬと言うのか!!」


「その通りです」


 アンジェリカは剣を収めて向き直る。


「大人しく農地でも耕していてもらった方がよっぽど有意義です」


「くくく。我に人間ごときの労役を強いようとは」


「貴方人間でしょう」


 いちいちツッコミを入れるのもバカバカしい。そう思っているのに口をついて出る言葉にアンジェリカは歯噛みした。


「我が瘴気に耐えうる貴重な肉体を得られるのだ。農民は諸手を挙げて喜ぶことだろうな」


「あー、はいはいそうですねー。って、私だけですか!?」


「何を驚くことがある。何故我が人間ごときの下らぬ労役に貴重な時間を割かねばならぬというのだ」


 アンジェリカの手がゆっくりと剣の柄を掴む。


「お前、いい加減にしないと切り刻むぞ」


「ひぇっ」


「ほら行きますよー」


 おかしな言動をしているとはいえたかだか14の戦力も持たない子供。

 アンジェリカは剥がれた仮面に薄く笑みを浮かべて歩き出す。


(かわいいとこあるじゃないですか、チカラくん)

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