第2話
当日の雨の日はおしゃれもがっつりしていけば、天羽くんも身綺麗な格好をしてくれていた。それだけでテンションも爆上がりしそうなのを抑えるのが大変だったわ。いつもなら、雨の日はカフェとかで適当にコーヒーを注文して携帯アプリとかで時間つぶしするだけなので、おしゃれも適当だったのに。
特定の誰かと出かけるだけで舞い上がるなど、乙女真っ盛りだった十代の頃くらいだ。今も二十歳前だけど、趣味のせいでどこか達観していた時期を送り続けていたから……家族以外の誰かと出かける楽しみを感じられるのは貴重だ。今日の雨上がりは一段と楽しみになると、とりあえずランチを食べるのに並んでフードコートに向かった。
「夏芽って、大学だとスマートな服装してたけど。今日は可愛い系だな? いいと思う」
「……ありがとう」
さらっとモテ男発言をする天羽くんも、今更だが結構なイケメンだと認識出来た。ゼミの時はくじでペアになっただけだから適当に回答するつもりでいただけだったし、あんまり顔についての興味はなかったから。
今も、遠巻きに女子とかおばさんたちが一度は止まっては見たりするくらいだ。引き立て役にならない私なんかは雨上がりに濡れた雑草程度でしかないだろう。とはいえ、天羽くんを無視するつもりはないが。
「お。雨降って来たな」
それぞれのランチが手元に来たところで、大きなガラス窓に水滴がいくつか付いた。
天羽くんの言葉通り、たしかに雨が降り始めた。今日は降水確率が六十%くらいだったので叩きつけてくる力はそこそこ強い。けれど、嫌な音じゃなかった。いつもは雨上がりの匂いしか気にしていなかったのに、水の流れまで気にしてしまうくらい今日のはきれいに見えたのだ。
「……予報だと昼過ぎに上がるらしいけど」
「ずっと話すのは疲れるだろ? なんか遊ぶ? 買い物する?」
「あんまりそういうことしないけど、天羽くんはなにかしたいことある?」
「俺? ひとりだとコーヒー飲みながら窓の外眺めてるけど。今日は夏芽がいるから合わせるよ」
「……じ」
「え?」
「私も。雨が上がるまでは同じことしてきた」
「へぇ」
正直に告げても、天羽くんは私のことを馬鹿にするような感じではなかった。ただ、感心しているような微笑みを浮かべて、『いいな』と告げてくれたのだ。
やっぱり、この人は今までの同性異性の友だちや恋人とかと全然違う。自然体でいて良いってくらい、息をするのと同じように安心出来る相手だと思った。だけど、それが恋と言っていいのかはまだ確定できない。
とりあえず、どこかで遊ぶとかをすぐには決めずに、ランチを食べながら会話を続けることとなった。話題はお互いの趣味だけでなく、大学の講義の内容も加わった。面白くないものだと天羽くんが言っても、私が取っていないものでも新鮮に聞こえて楽しめた。日常生活で、しかも学生生活は趣味以外で味気ないものばかりだと思っていたのに……彼は違う。趣味を否定するどころか興味を抱いてくれたり、自分のも押しつけずにゆったりと共感させてくれたりするのだ。
こんな人、他にいない。大学に入学して二年目だけれどいい人と出会えたと確信できたのだ。
ランチを食べ終えて器やお冷が空っぽになっても、会話はゆったりのんびりと続き……外の雨も次第に勢いを弱め、やがて止んだ。そのタイミングを見計らっていたかのように、天羽くんがトレーを持ち上げて返却口に行こうと言い出した。
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