第145話ウインドバット

「どれぐらいの深さまでこのペースでいくの?」


「うーん、お昼ご飯を食べる時間ぐらいまでかなー」


「魔力を込めてワープとかはしないの?」


「入り口付近は魔力払うよりはこうやって走った方が魔力の消費は少ないよー。

もっと奥の方を目指すならいいんだけど、まだ挑んでも一瞬でやられちゃうだけだしねー。

それにこんな感じで少しずつ難しくなっていた方が馴らしやすいかなーと」


「なるほど、その通りだと思います」


魔力を普通に進むより払った挙句、身の程より強い魔物と戦ってやられるのと今この感じで少しペース上げながら攻略するのでは比べ物にならないぐらいこちらの方が良い。


「さて、そろそろまた新しい魔物が出てくるよー。

ペースは落とさないけど、気を引き締めてねー」


「はい」


フェアに合わせてついていくと新しい魔物が姿を現す。

蝙蝠のような見た目をしており、天井に貼り付いている。

色が黒に近い色になっているので辺りが暗いのも相まってかなり見えづらい。


「ウィンドバットだね。

ただでさえ、黒くて見えにくい癖に風の刃を放ってくるから注意―」


ウィンドバットはこちらを視野に収めると天井から離れ、飛び回り始める。

そしてこちらに向かって風の刃を飛ばし始める。

前にいるフェアはうまく拳で弾いて無力化しているようだが、当然フェアに当たりそうにないものはウィリィンが対処する必要がある。

風の刃は透明なため、魔力を見て形を捉える必要があり、結構な速度で飛んでくるので、暗さも相まって距離感を掴むのが難しい。

それでもウィリィンも同様に金棒を振り回し、風の刃をかき消していく。


「いや、こいつ、思った以上にすばしっこい!?」


フェアは素早く飛び上がってバット倒しているが、奥からどんどんと迫ってくるのでウィリィンも処理に回っているが思った以上にバットの飛び回る速度が速く、金棒を振り回してもたまにかわされてしまう。


「しかも結構集団で現れたねー」


そう、先ほどまで多くても5体とかそれぐらいだったが、今のバット戦っているのは15体はいる。

それでも、集中して魔力とバットの動きを見極めれば当たることはない。

フェアの方が討伐数は多いものの、ウィリィンもいい感じに討伐できている。


「結構小さくて当てにくいのに、しっかり倒せてたねー」



思った以上に団体での歓迎に足を止めざるを得なかったが、歩みを再開する。


「そういえば今のところ、何も落ちないし、宝箱の類も見当たらないね」


「敵が弱いからねー。

収支がマイナスになるような所には基本ご褒美はないかなー。

今だってほぼ魔力消費せずに戦えているでしょ?」


ダンジョン側も落としの悪い客にサービスするつもりはないらしい。


「の割には結構嫌らしいことをしてくるけどっ」


ウィリィンはまた正面から飛んでくる風の刃を相殺しながら話す。


「弱くても攻撃を当てられるかもしれないからねー。

ちなみにここらへんにある宝箱は大体トラップだけのハズレだよー」


「コスパいいな」


使用する魔力は少なめだが、それでも一方的な蹂躙をされないように工夫が施されている。

少しでも魔力を使わせるようにそんな意図が読み取れる。


「ま、ウザったいなら入り口で魔力払ってスキップしてねー、ってこと」


「なるほど」


そうやって喋りながらも正面からはわんさか敵が現れる。

ウインドバットが追加されたことにより、少々接近に手間取ることがあるが、基本的には敵との距離を詰めて、倒すのみ。


ゴブリンとバットの混成部隊が正面から襲ってきたり、


「弓も、風の刃もそんなに変わらないかな」


遠距離は問題なく、ゴブリンがバットの前衛になるように立ち回るが、


「その耐久力じゃ前衛は務まらないよねー」


一撃で粉砕されてしまうため、あまり意味を成していない。


唯一ヒヤッとしたのは、

前に現れたバット達と何故か1体紛れ込んでいるゴブリンを倒そうとしたところ、ゴブリンが壁を操作すると後ろから正面にいる数と同数ぐらいのバットが天井から姿を現し挟み撃ちになった時ぐらいだ。


「後ろよろしくー。

正面終わったら援護いくねー」


「はい」


正面のバット達に背を向ける形で後ろのバット達に向き合い、攻撃を仕掛けるわけだが、正面からも勿論、フェアをすり抜けて後ろからも風の刃が襲ってくるわけで、目のついていない方向にも気を配って、攻撃をかわしながら敵を殲滅する必要がある。

そのためには自身の魔力を周囲に展開して、刃を検知できるようにしてかわす、いなすを行う必要がある。

被弾しないことを最優先にしているので殲滅速度は速くないものの、それにバットはコチラが近づくと距離を取ってくるので、それより速く詰める必要があるのと、隙を晒すと噛み付いてこようとするのでどちらも油断ならない。

そうこうしているうちに正面の殲滅が終了したフェアが駆けつけ、そのまま全滅させた。


「いやー、前後に挟まれると色んな方向意識しないとだから結構ひりつくねー」


「凄い神経使う...

敵に背後向けるのはやっぱりちょっと怖い」

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