第13話 ケイトのお母さん

 彼女の秘密は秘密のまま、俺はケイトと共にリビングへと向かった。


 螺旋階段を抜けた先の大きな扉を開くとすぐにリビングが広がる。リビングだけで俺の家の広さを超えていそうな勢いだ。


「あ、お母さん! 彼がいつも話してるバッド君!」


「あ、え、えっと! 最近ケイトさんと仲良くさせてもらってますバッドって言います! いきなりお邪魔してすいません! お邪魔します!」


 リビングに入ってすぐ右側にあったコの字のソファーに座る彼女がケイトのお母さんらしい。咄嗟に挨拶をする。


「あら、あなたがバッド君ね。いらっしゃい。私はライトって言います。ゆっくりしていってね」


「は、はい!」


 優しく返事をしてくれたケイトのお母さんはライトさんと言うらしい。ケイトは領主の娘って言ってたから……この人がこの街のトップなのかな? あんまりそうは見えないけど……


「あ、じゃああっちのスペースでお話しよ! おっきいクッション2個あるでしょ! あそこ!」


「あ、うん。分かった」


 もう少しライトさんとお話をしたかったのだがケイトに遮られてしまう。まぁ、今日限りじゃないだろうしな。お母さんとゆっくり話すのはまた今度だ。


 そう言えば、ケイトも俺の両親が亡くなるのと同じくらいに両親を失ってしまう。

 俺は今自分の最悪の未来を変えようとしか思っていなかった。そして、少しずつ未来は変わり始めている。


 もし、俺の行動でケイトの未来が変えられるのなら。


「お母さんはもう部屋でゆっくりしてていいよー! 今日のご飯私が作るから!」


 そう捨て台詞を残し俺の背中を押してせっせこ大きなクッションがある方へと案内された。


「ふぅ……このクッション人をダメにするでしょ……」


「はぁ……そうだな。もう立ち上がれないよ……」


 クッションに埋まり、なんの会話もせず数秒。ふと俺は質問をしてみた。


「……お母さんのこと、好きか?」


「うん。大好きだし、大切な家族だよ」


 クッションに埋まりながらケイトは間髪入れずに答えてくれた。

 その回答を聞いた時、俺は思った。


 ……あぁ、俺ってやっぱちょろいんだ。


 変えてみたい。いや……変えて見せるんだ。彼女の運命だって変えて見せる。


 死に戻りなんてせっかくの良い機会じゃないか。抗うだけ抗え。大切なもん全部回収するんだ。


 俺は新たに決心をし、目を瞑る。そして、意識が飛びかけた瞬間だ。


「バッド君。いつもケイトと仲良くしてくれてありがとね。はい、お茶とお菓子準備してたからこれ食べて」


「は、はい! ありがとうございますライトさん!」


 いきなり話しかけられて戸惑いながら返事をする俺に対しニコッ、と笑うライトさんの顔にはケイトの面影が強く映し出されていた。


「もーうお母さん! 無理しないでって言ってるのに!」


「無理じゃないわよ? せっかくバッド君が来てくれたんだから少しくらいお話させてくれたっていいじゃない」


「あはは……」


 親子の言い合いを苦笑いで見守る俺。どうすればいいんだ……? 一旦……ね?


「あ、あの……ライトさんがこの街の領主さんなんですか?」


 気まづい雰囲気を払拭しようと試みた俺の質問。それを聞いた瞬間さらに空気が重たくなるのを感じた。


 ……やべ、なんかした? 悪いこと聞いたか?


「あ、ちょ、そ、その……良くない事聞いてしまったようなので……」


 質問を訂正しようとした瞬間だった。ライトさんが口を開く。


「私は領主じゃないわ。この街を指揮っているのは他の人」


「って事はケイトのお父さ……」


「今はこの家にいないんだけどね」


 俺の言葉を遮るように話をするライトさん。そのという単語を。


「……まぁまぁ! バッド君もお母さんもとりあえずその話はいいじゃん! じゃあお母さんも一緒にバッド君の馬鹿みたいな修行の話でも聞く?」


「ちょケイト! 馬鹿ってなんだよ!」


「あら。じゃあ聞こうかしら」


「ライトさんも少し乗り気なのやめてください!」


 あぁ。もう一旦考えるのはやめておこう。考えた所で……ケイトのためにはならないだろうからな。


 ケイトの過去と今。そして未来。その謎が少しずつ分かり始めている気がした。しかも、それはきっと良くないもので、俺が何か出来るようなものでも無いだろう。


 ……今俺に出来ることはケイトやライトさんと仲良くすることだけだ。うん。今はそれに専念しよう。


 こうやってケイトやライトさんとか変わっていけばきっと未来は変わる。

 ケイトの両親を助けたい。ケイトの過去を変えたい。そんな気持ちが正しいのかなんて分からない。でも、もしケイトが過去に戻っていたのなら。


 言うまでもない。きっと助けるために彼女は身を粉にしても未来を変えるだろう。


「まぁ……修行って言ってもちょっと特殊で」


「うんうん」





 でも─────


 ……俺はまだ、彼女にとって最悪な未来、いや、俺にとって最悪な過去がこれから起きるということをまだ知らない。

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