第12話 知りたい
目の前にそびえ立つ宮殿とケイトの身分の真実を知り驚きを隠せないバッドである。
家に沢山人がいるってそういう事だったのか……
「そ、それはちょっと驚きだな……」
「だよね。バッド君ごめんね」
「あ、あ、いや、謝らなくていいんだよ!」
ケイトは宮殿の方を見つめる。その横顔からは少し寂しそうな雰囲気を感じ取った。
正直何をすればいいかわからなくなっていた俺に、ケイトは質問をなげかけた。
「私の身分知っても……仲良くしてくれる?」
寂しそうなケイトは宮殿を見つめながらそう聞いた。
なんだ。そんなの当たり前じゃないか。
「あぁ。もちろんだよ」
「よかった。ありがとね」
やっとこっちを見てくれたケイト。その表情は安堵に満ち溢れていた。
「じゃあ……俺はあのお家にお邪魔していいってことか?」
「そうだよ! さ、行きましょ!」
俺はケイトに手を引かれ、痛む身体にムチを打ち小走りでケイトの住む宮殿へと向かった。
☆☆☆
街のメインストリートを抜け、階段を上る。するとそこには大きな門とその先に遠くからでも見えた宮殿が現れた。
ケイトは門の鍵穴付近へと向かい、手をかざした。その瞬間、門には魔力が流れ、ゴゴゴっと門が開いた。
そこからいくつかの噴水を抜けた先に小さなお城が待ち受けている。
……やっと着いた。こりゃ次来るのしんどいな……元気な時に来よう……
「じゃあちょっとここで待ってて。お母さんに聞いてくるから」
「あぁ。そこのベンチ借りてもいいか?」
「うん。疲れちゃったよねごめん。すぐ聞いてくる!」
そう言ってケイトは玄関を開け、中へと入っていた。それを見届けた俺は数メートル先にあったベンチに腰かけ、一時休息を取った。
数分が経ち、玄関がガチャっと開き中からケイトがでてきた。俺の目の前まで小走りで来るケイト。まるで小動物みたいで可愛い。
「お待たせバッド!」
元気よくそう言った彼女は両手で大きな丸を頭の上に作り、「行こっ!」と言って俺を無理やり立ち上がらせた。
俺は疲れた素振りなんて見せず、ケイトに引かれるがままについていった。
☆☆☆
「お邪魔します……って広ぉ……」
玄関を開けて直ぐ目の前に大きな螺旋階段があり、左右にはいくつもの部屋があった。
「2階にリビングがあってそこにお母さんが待ってるから挨拶しに行こ!」
「そ、そうだね。あ、挨拶かぁ……」
「まぁ緊張しないで! いつもお母さんにはバッド君のことお話してるから大丈夫だよ!」
「うん。頑張る」
こうして俺とケイトは螺旋階段を昇って行く。そしてその途中の事だ。目の前から白を基調としたメイド服を着た女性が降りてくる。見た目はケイトとは正反対というのがわかりやすい。黒髪ショートである。
まぁ分かりやすく言えば可愛いよって話だ。
「こ、こんにちは……」
「ちっ」
「え? ちょ、え?」
すれ違う瞬間、明らかに舌打ちをされた。更にケイトはそれを無視する。こんな状況に耐えられるわけが無い。
「大丈夫……なの? めちゃくちゃ切れてたけど……俺来て大丈夫だった?」
螺旋階段を登りながら小さな声で質問をする。
「うん。大丈夫ごめんね。私あのメイド嫌いだからあっちも私の事嫌ってるんだよ」
「あぁ……そうなんだ。まぁ、なんだろ。忘れるわ」
「うん、ありがたいかも」
舌打ち女とすれ違ってからケイトの表情が重くなる。
「……あほ」
俺は螺旋階段を登りった位でケイトの頭に弱めのチョップをした。
「あ、あほってなに!?」
「……ははは! そーゆー顔でいいんだよケイトは」
「そーゆー顔……?」
「あぁ。そっちの方がずっと可愛い」
勢いで可愛いとか言ってしまった。でも、後悔はない。欲を言えば……笑ってる顔がいちばんかわいいんだけどな。
「か、可愛いって言われても……あ、ありがとう……?」
嘘です。照れてる顔が1番です。
「ま、まぁ……なんだ。あんまり暗い顔すんなよーってこと。思い詰めるのも良くないし、嫌なことあるなら全部吐き出してねって」
「……ありがとね。バッド君!」
その瞬間、俺の中の時が止まる。
急に抱きついてくるケイトに驚きを隠せなかった。俺の胸に顔を押し付け離さない彼女の表情はどうなっているのだろうか。
「ちょ、危ないって! 階段前だから!」
「危なく……ない!」
少し声が震えているようにも感じられるケイトの声。気のせいかとも思える。
でも、やっぱり引っかかること前の俺の家でのこと。
「俺さ……やっぱりケイトの全部知りたいや」
抱きつくケイトの頭にポンッ、と手を乗せ聞いてしまった。これが正解なのかは分からない。でも、これが正解であって欲しかったんだ。
しばらく沈黙を続けるケイト。何も言わずに待つ俺。
「……私もバッド君には伝えたいって思ってる」
顔を隠しながら言葉を発したケイトの声はさっきよりも震えていた。
「……でもまた今度」
「そっか。分かった。俺はずっと待ってるから。ケイトが俺の事嫌いーってなるまで」
「嫌いになんてならないよ!」
反射的に隠していた顔を露わにして訴える彼女と目が合う。
「……!」
その途端ケイトは俺の身体から離れ、後ろを向いてしまう。
「バッド君には私しかいないように私にもバッド君しかいないんだよ」
「そうだよな。ぼっち同士仲良くしようぜ」
「うん! ぼっちが2人集まればぼっちじゃないもんねっ!」
明るく変わった声色。表情は見えない。何度目だろうか、この感情は。
見たい。聞きたい。知りたい。
前世に足りなかった事はこれなのだろうか。未来が変わっている今、成すべきことは彼女の秘密を知ることなのだろうか。
でも、ただ今は。彼女を手放したくなかった。
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