私の事、好きですか?

根無し草

第1話 初恋の女の子

私は、とても在り来りな人間とは言えない。

恋愛に興味を持ったことはなかった。

いい子だったと思う。

親の言う通り言いつけを守る子ども、期待に応える子どもであった。

だから私一人の人生の価値観というのは

単純で

心底

つまらない。

自分で何かを発見したことは無かった。

楽しみを見つけたことがなかった。

蟻地獄を見つけては

アリをわざと落として救出するような根暗な子どもであった。


夢を見つけようとした。

見つけようとしたけれど、親の喜ぶ言葉しかでない。

画家。死ぬまで有名になれないと言われた。

東大生。今の時期の勉強レベルでは無理だと言われた。

マックの店員。もっと大きな夢をもちなさいと言われた。

世界一周。そういうことじゃないと。


夢を持つことがなんの意味を為すのか、理解に及ばず

ただ親を喜ばせたかっただけだった。

母親は私に依存的で、甲斐甲斐しく世話を焼いては家の事、親のこと、私の父の愚痴をひたすらに聞かせた。


私は本当に、つまらない人間…。


転勤族で、転校ばかりしていたせいか第一印象だけはいい子どもになったとは思う。

はじめまして!

よろしくお願いします!と笑顔を綺麗に作ったつもりだ。

そのおかげか、隣の席になる子はいつも、親切だった。


いつかは結局途切れるだろうとも分かっていたから、友達をたくさん作りたい!など

そういった積極的な面は皆無であった。いつも、心は寂しく、また、無に近いものを抱えていたのだ。


趣味もなくなにか生きる目的をみいだせる訳でもない、友人も軽薄な関係、地元に定着もせず私は完全な

【根無し草】であった。

この先に何かあるなんて

何も期待できない。


そんな小学生4年生が、小学5年生になってある時熱烈に、他人から

好意を持たれることになった。


初めての体験である。

他者から、好きだと言われることが、斬新であった。


その女の子は、自分のことを俺と呼び、

ボブくらいの髪の毛をいつもポニーテールに縛りあげ、女の子らしいことは嫌い、反抗的で、

常に男子と主にスポーツをしている。そんな子であった。

なぜ私なのか、何を持って好意を持たれているのかは、初めから、いままでも全く理解出来ず

ただただ、からかわれているような、

いじられているような、謎の不快感があったのだが

いつもその子は私を気にかけ

私の名を呼び、

接点のない私にとびきりの笑顔をくれた。


明確に会話の中に織り交ぜて好きと言われた事もあった。

その時は困惑からうまく反応出来なかったのだが…


今でも忘れないひとつの出来事。

給食の時間デザートに冷凍みかんがでて…

私は冷凍みかんが好きだったので、ジャンケンに参加した。

席に座ってひたすら夢中でみかんを剥き、黙々と食べていると

いいなぁ〜。

とその子がよってくる。

私は距離感の分からない子どもであったし、少なくとも意識はしていたが、冷凍みかんをひとつずつつまみながら、ひとつ食べる?

とその子に聞いた。

いいなぁ。というからには、食べたいのかな?と考えて。


するとその子は私の口の中

つまり

私がつい今程口の中に入れたひとつの冷凍みかんを、一瞬の間、私の口から、貰っていったのだ。


どん!!

と心臓が音を立てた。

なった事の無い、きいたことの無い音。


おいしい。とその子はいたずらっぽく笑みを浮かべ、教室の外へ行ってしまった。


私は同性愛者ではないし、

そんな単語も知らない。聞いたこともなかっただろう。


恋をしたこともない、人を好きになった事も。まるで、他人に興味もない、何も知らない子どもでしかなかったので

ただ、私を、私なんかを、好きなのだ、という存在を

私は好きになってしまった。

好きにならざるを得なかった。


私ら、そういった

至極単純明快な自分に、初めて出会った。


自分は…人を好きになることが出来るのかと

人を好きになることが、きちんと出来る人間なのだと思えて、

心のうちでとても、嬉しくもなった。

温度があるのだと、思えたから。


それから彼女のことは常に頭のどこかにあって、きっとそれが私の


初恋だったんだと思う。


今でも、夢に見るよ。

今でも私は、私のことを好きな人に惹かれるし

それが男でも女でも関係はない。


そういう価値観を、くれたのは

その子との、初恋の

思い出の大切な産物である。



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