2024年8月18日 ー大報告会ー


 あの旅行から季節は巡って夏の終わり。

 今年も猛暑日が続き、地球温暖化のニュースでテレビは持ちきりだ。

「きょうもあっついねー」

 となりで洗濯物を干しながら、みおが言う。

「そうだな、今日も早く乾きそうだね。」

 こういう光景はいい物だ。世の中の夫婦というものは、洗濯物を干しながらこんなにイチャイチャできることを知って欲しい。

「そうだ翔さん、今日サークルの同期で同窓会でしょ。」

「うん、ひさしぶりだなーみんな元気かな。」

 今日はサークルの同期のみで集まる同窓会。みおのこともみんなに報告しようと思う。

「ちゃんとみおも元気ってみんなに言っておくよ。」

「うん、楽しんでね」

 そういうと時刻は、10時そろそろ準備を始めないと遅刻する。

「すまん、みお任せていいい?」 

「おまかせあれ」

 他愛もない会話は本当に幸せだと気付かされる。

 

 東京は9月も下旬なのに今日も猛暑日だと言われている。30℃越え。

 髪を直して、お気に入りの白Tを着る。時計をつけたら準備完了だ。

「じゃあ行ってくるね。」

「うん、行ってらっしゃい。あっそうだ、今日雨降るかもって言ってたから傘持って行ったほうがいいかも」

「そうなんだ。ゲリラ豪雨か。」

 あの雨に対抗できないが少しでも抗うために折り畳み傘を持つ。 

「じゃ今度こそ行ってくる。」

「まって」

 そう言われて振り返ると、唇がぶつかる。

 えへへと笑いながら、行ってらっしゃいと言う彼女。

 照れながら扉を開ける彼氏。

 最高の時間である。

 ただ、笑顔の後の扉越しに手を振る彼女の顔は少し浮かれない顔のような気がした。

 

「よっ翔。げんきだったー?」

 親友の慶太だ。駅で待ち合わせして一緒に店に行く。

「おー慶太。久しぶりだな、なんかお前丸くなった?」

「おいおい、おれももう30だぜ、それに子供もいるし色々とあんのよ。」

「てか翔って今恋愛どうなのよ」

「言ってなかったな、彼女できたわ。」

「えーーーまじかよ誰々??」

「そんなことよりついたぞ店」

「おいおい、教えろって」

「後でな」

 

 お店の中には見知った顔が大勢いた。

 20人はいたとおもうが、社会人になっても集まれる友を持てたのは嬉しい。


「じゃあ遅くなる子もいるらしいから先に乾杯しましょう。きょうは呑むよーかんぱーい」

 サークルの代表だった沙苗が隣で乾杯の挨拶をする。みんなが一斉にグラスをあげ、店にかんぱーいと声が響く。

「それにしてもいいお店ね。」

「だろ、結構頑張ったんだわ。」

 早苗の言葉に返しているのは、当時のサークルの庶務をしたいた武井だ。

「社会人一年目で会社を辞めてすぐに飲食店で修行して、苦節5年。31でやっと作った俺の城だ。」

 武井は一浪していて、俺たちの1個上である。

「いいなー楽しそうだね。」

「そう言う沙苗もいまや立派な弁護士だろ。すごいじゃんか。」

「まあね」

 ドヤ顔する沙苗は都内で弁護士として働いているらしい。

「そうだ翔くんは相変わらずなの?」

「うん、おれは変わらず日々会社の歯車としてがんばってますよ」 

「でもすごいと思う。そうやってできるの。」

 なんだ嫌味か。

 自分に特別な才能がないことを再認識されるから、この席は嫌だ。そう思っていると、

「おいおい、君たち休日まで仕事の話をして、真面目だねー」

 振り返ると慶太が俺の後ろで二人に話していた。

「全くお前たちは、翔ここにいると、お前まで真面目になっちまう。あっちのテーブル行こうぜ」

「何よ慶太。」

「あっ委員長がお怒りだー逃げるぞ翔」

 これだから俺は慶太と親友なんだ。どんな時でもこいつはこいつだ。

 沙苗はほっぺたを膨らませながらこっちを見る。どこか幸せそうだ。

 

 慶太と座ったテーブルは6人がけで、女子のみ席だ。

「しつれーい。女子会参加希望の男子2人です」

 こいつの怖いものはあるんだろうか。

「いいよー8人でお話ししよー」

 笑顔で言ってくれたのは、亜希。この子とはなぜか意外と仲が良かったような気がする。

「そうだ、聞いてよ、みんな翔に彼女ができたんだって!」

「えーー」

 前言撤回だ。こいつとなぜ親友だかわからない。

「お相手は?会社の人?」

「うんそうだな、」

「だれだれ、写真見せてよー」

 この展開は意外と面白いかもしれない。そう思って写真を見せる。

「えっ、、、、みおちゃん?」

 みんなが驚いた顔で見つめる。

「ああうん、付き合ったんだ。」

 突然背中に鈍器のようなもので、殴られた様な痛さが走る。

「うおーーーー翔が一個下のマドンナ捕まえたぞー」

 こいつは本当にやめてくれ、。

 店内のみんなが一斉にこっちを見る。もうこれではいじめだ。

「あっ、、えっと、、池田みおさんと付き合ったんだ。俺。」

 変な発表になってしまった。

「おいおいすげえな。翔」

「まさかみおちゃんと付き合うとはやるねー」

 なぜか賞賛の声が上がる。もうやめてくれ。

「馴れ初めは教えてよ詳しく。」

「ちょっとまったみんな!まずはあれだろ、乾杯しちゃいましょうよ!翔の幸せにかんぱーい」

 ちょっと照れ臭いが嫌な気分ではない。そこからはいろんな机に招待され怒涛の質疑応答に回答するだけだった。

 

「そうだ。俺亜希に聞きたいことがあったんだ。」

「おいおいまだ逃さないぞー」

「わかったわかったよ慶太。ちょっと待ってろ。」

 亜希のテーブルに戻る。しかし亜希がいない。

「亜希は?」

「さっき帰っちゃった。予定がこの後あるんだって。」

「そっか、」

「なんかあった?」

「いや、聞かなきゃいけないことがある気がして。」

「何それ」

 女子集団が笑いながらこっちを見る。

「それより私たちにも教えてよー。はじめに聞いたの私たちなんだから。」

 また捕まってしまった。そこからは酒を飲んではみおの話をして時刻はいつの間には17時。

 皆んなで写真を撮って一旦お開きにする。


「翔子のあとどうするよ。二次会いく?」

「いや今日はやめておくよ。帰るよ。」

 もう何時間も飲んで流石に疲れた、、。

「そっか、まあじゃあまたなだな。今後みおちゃんにも合わせてくれよ。俺の武勇伝聞かせるから」

「わかったよ、じゃあな」

 楽しい時間だった。でも何か忘れている気がする。

「そうだ翔。一つ聞きたかったんだけど。」

「何?」

「あー、やっぱいいや、お幸せにな。」

「なんだよ気になるだろ。」

「引き留めたかっただけー、また連絡するわ。」

 こいつは本当にふざけてる。

「はいよ。じゃあな。」


 改札を通って家に帰る。

 電車の中でみおになんて言おうか考えていた。

 今日はご飯食べられない理由を、。

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