1-7話

カレンとアイリスと共に、先程いた町外れの丘を目指して談笑しながら登っていると、その視線の先には、ポツリと一本だけ咲いている桜の峯を優しく撫でるトウヤの姿があった。

話し声が彼に届いたのか、ユキハに向けて思い切り手を振り、ユキハもまたそれに返した。


「久しぶりに笑ったな! その様子だと、なれたか? 友達に」

「うん! えっと、トウヤ。いつもありがと」

「なんのなんの。……って、え⁉ なに、その髪色⁉」

「やっぱり変かな」


ユキハが癖のある前髪を軽く弄ると、トウヤは思い切り抱きしめた。


「いいや! 本当似合ってるって。緑ってことは風の加護を受けてるってことだろ?」

「あ、そうか!」


二人が揃ってカレンとアイリスの方を見つめると、二人もまた笑顔を返した。


「そ。あの宝玉には初代風の獣騎士の力が封じられてるんだよ。その力が今、ユキハの中にあるってこと」

「ふふ、学院生活が楽しみですね。お二人は本日どうされますか? 町中でお祭り騒ぎですが」

「今日は帰ります。ちょっと疲れちゃって……」


これまでの出来事に一気に疲弊し、脱力してしまったところをトウヤがそっと支え抱き上げそっと額に口づけすると、ユキハは深い眠りについた。


「今日は疲れたもんな。先輩達、折角の御誘いで悪いけど、今日は解散でいいっすか?」

「そうですね。あなたがそう仰るなら。あとはお任せしてもよろしいですか?」

「おう。じゃあな。また学院で」


 そう言い残しトウヤは笑顔で手を振ると、ユキハを抱いたまま施設へと戻っていった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る