第7話 夏休みの十物語
プールで
七月の終わり、そろそろ
八月いっぱい長い休みに入り、その間は学校のことを忘れて、小学生たちは遊びという名の冒険に出かけるのだ。
ちなみに、アタシと
「
夏休み前、最後の保健委員の仕事の後に、先生に聞いてみた。
「私は王馬小学校に住んでいるようなものだから、変わらず学校にいるわよ」
「小学校に住んでるんですか……」
「もとがキツネのオバケだからね、アパートとかに住む契約ができないのよね……」
難しいことはよくわからないけど、どうやら住むお家はないらしい。
「でも、こころちゃんが声をかけてくれれば、いっしょについていくから、遠慮なく言ってね」
曜子先生がいてくれれば心強いし、アタシはずっと曜子先生といっしょにいたいと思っていた。
そんな頃、友だち同士で夏休みに何をするかクラスメイトたちが話し合っている時に、アタシを誘ったのが、あの鬼丸くんである。
「
「え、やだよ……」
アタシは鬼丸くんがちょっぴり苦手だ。
それはイタズラばっかりする鬼丸くんの自業自得である。
そもそも鬼丸くんはあんなにオバケがらみの事件に巻き込まれているのに、ちっとも反省していない。
……まあ、彼が事件に巻き込まれたときは、たいてい気を失っているのだけど。
「なんでだよ、いいじゃねえかよ、ノリ悪いな。肝試しでなんか変なオバケが出てきても、俺が守ってやるからさ」
「……」
「なんだ、その信用できないって目は!?」
実際、信用していない。
鬼丸くんにはオバケを撃退するほどの力はないし、あまりにも頼りない。
「鬼丸、春風さんに迷惑をかけるんじゃない」
そこへ、助け舟を出してくれたのが、渡辺くんだった。
「それに、夜中に小学生が外を出歩くわけにもいかないだろう」
「へいへい、渡辺はいい子ちゃんだな」
鬼丸くんは不機嫌そうに口をへの字に曲げている。
「じゃあ、外に出ないでできること……そうだ、百物語しようぜ!」
「百物語?」
「怖い話を百個集めて、みんなで怖い話を語り合うんだ。一つ怖い話をしたら一本のろうそくを消す。そして、百個目の怖い話をして百本のろうそくを全部消すと――あとは何が起こるかお楽しみってやつ」
アタシは思わず顔をしかめてしまった。
鬼丸くんが面白半分でオバケ案件に首を突っ込むのが嫌だったのだ。
「アタシ、やりたくない」
「そう言うなって。俺が守ってやるって言ってんだろ。怖いなら抱きついてもいいからさ」
鬼丸くんは強引だ。
きっと、アタシが怖がっている姿を見るのを面白がっているに違いない。
「抱きつくなら僕にしておけ。鬼丸なんてなんの役にも立たない」
渡辺くんは冷静に返した。
たしかに、妖怪退治のできる渡辺くんのほうが信用はできる。
「と、とりあえず、もしやるんだったら、誰か大人の人といっしょのほうがいいよ」
そして、アタシが真っ先に思い浮かべた大人といえば……。
***
「百物語? ダメよ、何が起こるかわからないわよ」
曜子先生は保健室にやってきたアタシたちの相談に難しい顔をしていた。
「なんだよ、
鬼丸くんはバカにしたように笑うけど、目の前の先生が実はオバケだなんて気付いていないのだ。
「それに、ろうそくを百本用意するのも危ないわ。火事でも起こしたらどうするの?」
たしかに、なにかの拍子にろうそくを倒したら、大変なことになるだろう。
「それと、百物語って百個怖い話を用意しなきゃいけないでしょう。あなたたち、百個も話のネタ、あるの?」
鬼丸くんはそこで言葉に詰まった。
「……あ~、たしかに。じゃあ十物語でいいや」
「十物語?」
「怖い話、十個くらいなら俺らでも集められるだろ?」
……百物語が、急にしょぼくなったな……。
「えーっと、参加者は俺、春風、渡辺、八雲先生だろ。十を四で割るといくつだ?」
「え、アタシを勝手に参加させないでほしいんだけど」
「僕も、そんなくだらないものに参加する気はない。一人でやってろ」
アタシと渡辺くんは鬼丸くんに文句を言ったけど、鬼丸くんは聞く耳を持たない。
「ちなみに、十を四では割り切れないわね……」
「えー。じゃあどうすんだよ。十物語もできないわけ?」
曜子先生の割り算に、ブーと文句をたれる鬼丸くん。
「――じゃあ、俺も参加すれば一人二話になるね」
鈴が鳴るようなリンとした声とともに、長い黒髪を一つ縛りにした男の子が保健室に入ってきた。
「あ、安倍くん」
彼は
渡辺くんとよくいっしょにいる、学級委員長のかっこいい男の子である。
「いいじゃん、安倍! よし、じゃあメンバーはこれで決まりな!」
「ちょっと、勝手に決めないでよ!」
アタシは鬼丸くんに抗議したが、どうやらすでに決定事項らしく、がっくりと肩を落とすことになる。
〈続く〉
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