第3話 全日本花子さん協会
曜子先生の案内で、
まず、やってきたのは一階にある女子トイレ。
一番奥の個室をノックすると、「はぁ~い……」と返事がして、ギィ……とドアが開く。
中から出てきたのは、黄色いブラウスに赤いスカートの女の子。
足は透けていて、どうやら幽霊らしい。
「この子は
「全国って……花子さん、何人くらい日本にいるんですか?」
「全日本花子さん協会があって、小学生で命を終えた女の子の幽霊が全国に派遣されているのよ」
「全日本花子さん協会!?」
まるで冗談のような話だが、曜子先生の顔は至ってマジメ。
アタシは笑っていいのか迷った。
「お、オバケにもそういう協会みたいなの、あるんですね……」
そう返すので精いっぱいだ。
「ちなみに男子トイレには
「多分アニメとか映画の影響もあるんだと思います。われわれ全日本花子さん協会の、地道な活動の成果です」
花子さんはアタシより年下に見えるのにマジメな性格らしい。
「花子さん、『笑う猫』が王馬小学校に入ってきた気配はあった?」
「少なくともトイレには侵入してません。窓を開けたらすぐに気づきますから」
「そう。ありがとう」
曜子先生とアタシは花子さんに別れを告げて女子トイレを出た。
「トイレの窓からの侵入もなし、玄関は校長先生の銅像が見張っているし、他の侵入できそうな場所にいるオバケたちからも話を聞く限り、あのチェシャ猫はまだ学校の周りをさぐっている状態かしら」
ちなみに、王馬小学校の玄関前にある校長先生の銅像も、『つくもがみ』っていうオバケがとりついているらしい。
つくもがみは、生き物じゃない道具とか、長年使われているものに宿るんだって。
曜子先生は、そういった学校に住んでいるオバケたちに会いに行っては、おしゃべりをして交流しているらしかった。
ついでに、アタシのこともオバケたちに紹介されて、オバケたちも人間に興味しんしんみたい。
アタシは最初こわいなと思っていたけど、親切なオバケが多くてだんだん安心したのだ。
ところで、アタシには気になることがあった。
「曜子先生は、いつから王馬小学校にいるんですか?」
「そうね……」
曜子先生は思い出すためなのか、空中に視線をさまよわせる。
「私は、千年生きてるキツネのオバケなんだけど……」
「千年!」
これはまた、とほうもない時間を生きている。
「昔、王馬小学校の近くで車にはねられて、死にかけたことがあったの」
……千年生きてても、車には勝てないらしい。
「その当時の校長先生が、私を助けてくれたのよ」
それ以来、曜子先生は命を救ってくれた校長先生への恩返しとして、学校の保健室に住み着いたそうだ。
そして、王馬小学校で悪さをするオバケをこらしめて、オバケたちのリーダーになったらしい。
それで、アタシは気づいたことがあった。
「曜子先生が悪いオバケをこらしめて、学校のどこかに閉じ込めたなら、オバケの鍵も先生が持ってるんですか?」
「こころちゃんはするどいわね」
どうやら、アタシの考えたことは、いい線いってるらしい。
「ただ、鍵を持ってるかどうかという質問には答えられないわ」
「どうして?」
「チェシャ猫は透明になれるのよ。もし学校に入ってきて、鍵の場所を聞かれたら大変」
それはそうだ。
もし、アタシに鍵の隠し場所を教えたら、チェシャ猫のいるところで、うっかり言ってしまうかもしれない。
アタシは思わず、両手で口をおおった。
なんだか、自分の口から勝手に言葉が飛び出してしまうような気がしたのだ。
そんなアタシを見て、曜子先生はクスクスと笑う。
「今日はこのくらいにして、そろそろ帰ったほうがいいわね」
そして、その日も曜子先生はアタシを家まで送り届けてくれたのだ。
アタシはその晩、夕ごはんを食べている間も、おふろに入っている間も、ふとんに入っているときも、ずっと『オバケの鍵』について考えていた。
どんな鍵なんだろう。
悪いオバケを封印できるほどの鍵。
きっとすごい力を秘めている、魔法の鍵なんだ。
その夜、アタシは曜子先生といっしょに『笑う猫』をやっつける夢を見た。
でも、朝起きたら、すっかり内容を忘れてしまったのだ。
〈続く〉
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