10.お風呂がすごく広い

「ひぉい」


 驚きすぎてちゃんと言えなかったけど、本当に広いの。前に遊びに行った湖みたいに、向こうまでお湯がある。白いふゆふゆした煙は、お湯に出るんだよね。


「ふゆふゆ……可愛いな。ふわふわ、かな?」


「ううん、ふゆふゆ」


 間違ってないよ。話している間に、僕の薄い布の服は脱がされちゃった。お母さんが着せてくれる服と違って、頭から被っただけの布だもん。ボタンもリボンもない。


 ディーもすぐに服を脱いだ。体が岩みたいにゴツゴツしている。でこぼこしてて、僕より硬かった。ひょいっと抱っこしたディーは、お風呂の近くで僕を下ろす。すぐにお湯を汲んで、僕に掛けた。


「熱くないか?」


「平気」


 たっぷり体に掛けて、それから頭も濡らした。両手で顔を覆って、お目々や鼻に水が入らないようにするの。ディーの大きな手が泡をいっぱい連れてきて、僕を泡だらけにした。


 最後にまた流すんだ。僕が終わると、今度はディーの番だった。体が大きいから、僕もちょっと手伝う。白い泡をぺたぺたと伸ばした。お父さんのお風呂の手伝いをしたから覚えているよ。


 いっぱい洗って、流して。抱っこでお湯に入った。自分で入れるよと言ったら、ここは深いんだって。ざぶんと入ったディーも足が立たないくらい。


「なんでお風呂、こんな大きいの?」


「ドラゴンでも入れるように、大きいんだ」


 どうしてドラゴンが入るの? もう一度質問した僕に、ディーは笑った。


「ルンのお父さんと同じで、俺も竜だからな」


「おんなじ?」


 じゃあ、鱗がある大きな体で、背中に羽もあって、お風呂のお湯がたくさん溢れちゃう大きさなんだ。前に見たお父さんの大きさは、山みたいだった。ドラゴンが入れるお風呂なら、お父さんが帰ってきたら一緒に入ろう。


 にこにこしながら足を揺らした。ディーがしっかり抱っこしてるから、沈んじゃう心配はないの。もし落ちても、ディーはすぐ助けると思う。


「アガリは遅いな、そろそろ服を持ってきてもらわないと」


 ぼうっとする。顔も体も赤くてぽかぽかして、ふわっとした感じだった。


「ルン?」


 のぼせたか、と僕をお風呂から出したディーが、タオルを被せる。そこへ水を流した。なんで? 拭くんじゃないのかな。でも冷たいのは気持ちいい。濡らした後から風が吹いて、僕の中の熱い部分を冷やした。


 眠りそうになったところへ、コップをもらう。甘い匂いに釣られて、口をつけた。こくり……一口飲んだら、残りも欲しくなる。お茶なのに甘い匂いがして、氷が入って冷たかった。おいしい。


「まだ飲むか?」


「うん、おいしい」


 もう一回お茶を飲んで、今度は乾いたタオルに包まれた。抱っこで運ばれたのは、ベッドのあるお部屋だ。途中にある大きな窓がある部屋は、ディーの抱っこで通り抜けた。


 お部屋の中に風が吹いて、そちらへ目を向ける。お外が暗いのに、向こうに灯りがあった。


「あれ、なに?」


「街の灯りだ。あの一つ一つに、誰かがいる」


「ふーん」


 僕の両手を使っても数えられない、いっぱいの人が住んでる。こんな風景初めて見た。昼間も光ってるのかな。そんな話をしていたのに、僕は途中で眠ったみたい。気づいたら、次の日の朝だったの。

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