07.膨大な魔力の暴走 ***SIDE竜王
集まって待ち受ける一団に、俺は首を傾げた。どうやらネズミを見逃したようだ。報告して軍をかき集めても、ドラゴン相手に数十の人間が勝てる筈もなく。あっさり蹴散らした。大きな飴で舌ったらずに発せられたルンの可愛い言葉の方が、衝撃が強い。
雷で処分した有象無象を眺め、抱いたルンと空を舞った。あまり言葉が得意ではないルンが、一生懸命に褒めてくれる。両親の居場所を特定して帰したら、もう会えないのか。そう思うと誘拐したくなるが、我慢だ。両親に交渉して、ときどき顔を見る権利を貰おう。
浮かれながら探した洞窟の前で、最悪の光景に遭遇した。小さな声で両親を呼ぶルンを胸に押し付ける。
何ということだ。倒れていたのは魔王陛下とその番だった。惨劇を見せないよう強く引き寄せ、ぐっと唇を噛む。血の臭いに誘われた獣が寄ってきたが、残留する魔力に怯えてうろつくだけ。いずれ、獣の餌になってしまう。
我が子を残して亡くなることは、どれほどの無念だったか。人間がこの子を攫ったのなら、状況は大まかに想像できた。この子を人質にして、反撃を封じ込めたのだ。だからルンは傷だらけで、羽が千切れていた。
我が子の悲鳴と痛みに抵抗できなかった魔王である母親、そんな彼女を守ろうと盾になって死んだ父親。こんな状況だと知っていたら、もっと苦しめてやったのに。簡単に殺しすぎた。雷一撃で処分したことを悔やみながら、この場を離れようとする。
夫婦の埋葬はすぐ手配すれば、間に合う。獣が寄らぬよう、早くしなくては……。
背に手を回したルンが温かい。いや、熱い。発熱かと慌てたところで、膨大な魔力が爆発した。
「うわっ!」
反射的に手を離しそうになり、ぐっと堪える。ルンを手放すくらいなら、両手が焼け爛れた方がマシだ。炎を纏うルンの目は虚ろだった。何も映していない。なのに涙が頬を濡らす姿は、痛々しくて胸に突き刺さった。
「ルン」
呼びかけても、当然返事はない。暴走状態なのだろう。魔族や竜族の中に、稀に生まれる器の子だ。王やそれに準ずる能力を持つ子供のことで、魔力を蓄える器は通常の数百倍もある。
竜王である俺が受け止めなければ! この子は魔王と竜族の子だ。器の大きさは生まれが証明していた。大地を割り、火山を活性化させる。これほどの魔力が暴走したら、器が割れてしまう。
腕の中の幼子が失われる可能性に思い至り、恐怖が這い上がるように全身を震わせた。ルンが放出する魔力を吸収し、ゆっくり変換する。他者の魔力を身の内に取り込む作業は、ひどく苦痛を伴った。それでも放出するに任せるわけにいかない。
ルンを絶対に死なせない。その一心で、内側で荒れ狂う魔力が肌を引き裂いても手を緩めなかった。心配はない、この腕の中は安心だと言い聞かせながら、痛みに耐える。その時間は長かったのか、短かかったのか。
ルンはこてんと首を後ろに倒して、気を失うように眠った。放出し切ったようだ。安堵に胸を撫で下ろす。この幼さで、俺に迫る魔力量を持つなら……将来はもっと増えるだろう。こうして宥めてやれるのは、成人前までか。
体内から切り裂かれた痛みに顔を歪めながら、それでも守れた重みと温かさに気持ちは満たされていた。
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