06.衝撃的な出会い ***SIDE竜王
突然呼ばれた。あの声は物理的な壁を越えて、魔力を帯びて届く――お父さん、お母さん、
それだけ膨大な力があれば、敵など瞬殺だろうに。そう思うのに、心惹かれて空間を繋いだ。竜族はあまり魔法が得意ではない。圧倒的な力と溢れる魔力で叩きのめしてきた。小さな調整が苦手で、大きく地形を崩すような使い方は得意だ。
無理やり捻じ曲げた空間が、まだ歪んでいる。その場は地下牢のようだった。窓がなく鉄格子が嵌められた石造りの室内を見回し、そう判断する。人間が良く好んで作る牢だろう。足元に蹲る幼子を、剣で傷つけようとする人間……認識した瞬間に、手が出ていた。
額から耳まで、左目を通る形で大きな傷がある顔を怖がるのでは? と不安になった。だが幼子は気にした様子がない。にこにこと機嫌よく振る舞うため、疑問が浮かんだ。まさか目が見えてないのでは? その懸念はすぐに消える。
目の焦点は合っているし、俺の動きを目で追いかけた。単純に肝が据わっているだけか? 同族の子にも怯えられる俺にしたら、可愛い幼子がきゅっと服を掴む仕草にも胸が高鳴る。愛らしい仕草や表情に、視線は釘付けだった。
背に羽の残骸が残る幼子は、震えながら父親かと問う。違うと答えながら、可愛らしい泣き顔に魅了された。見惚れるなどと表現したら届かない。魅了され心を奪われるような、とても強い感情が生まれた。この子を泣かせたくない、願いを叶えてやりたい。
呼んだか分からないと首を振る姿に、頬が緩んだ。鼻を啜る幼子を傷つけたと思われる人間は、後ろで息絶えていた。ドラゴンの一撃を受けて無事な人間はいない。最強クラスの人間なら、骨折くらいか。以前に戦った戦士を思い浮かべながら、あれよりは弱いと口角を持ち上げた。背後の憂いなく抱き上げる。
鎖で繋がれた囚われの子は、両親との再会を願う。無理やり引き離されたことは想像がついた。こんなに愛らしく力に溢れた存在なら、人間も欲しがるはずだ。まあ、連中にこの魔力を感じ取る能力があれば……の話だが。
鎖と枷を外せば、嬉しそうにお礼を言う。背仲が痛むようで、体を小さくして震えた。涙を堪える様子に、こちらが辛くなると唇を噛んだ。
「一時凌ぎだが、ほら」
甘酸っぱい飴を放り込む。ここへ飛び込む際、魔力を使い過ぎた。その前に戦闘訓練をしていなければ問題なかったのだが、大量消費したところへ強制転移だ。空間を捻じ曲げた影響で、あまり魔力を使えない。治療も得意ではなかった。こんなことなら、習っておくべきだったか。
竜族の自己治癒力は高く、自分の傷を治療することはない。だから覚えずにいた。そのツケがここで現れるとは、何とも悔やまれる。飴には治療効果の高い特殊な蜂蜜が使われていた。これなら、少しは楽になるだろう。
ルンと名乗った子は、ほわりと表情を和らげた。やっぱり可愛い。こんなに愛らしいと誘拐が心配だろう、と離れている両親に同情するほどだ。転移が使えないので、まずは外へ出る。そこから飛んで戻ればいいと考えた。
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