つかの間

もち雪

第1話

 赤い紅葉が、たくさんつもりサクサクと言う音をたてる。


 色とりどりの着物を着た子供達がその周りを歩く。

 お面から少し見えた顔は、みな笑っているのにその声は聞こえず、葉の踏みしめる音だけが静かに響く。


 揚羽は飛び起きる。

 その夢を見たのは、もう何度目か……たびたび見ている夢。

 私の視点は、いつも紅葉の間をさまよっている。

 何者でもない視点……。

 時計の時間を見てみると今、2時、寝付いてからいくらもたってない時間だ。

 蝶柄の浴衣の生地と、私の長い髪が汗で肌にまとわりつく、外では雨がふっているようでしとしとという音がしている。

(もう、ここには居たくない……)


(でも、どこへ行けばいいの……)

揚羽あげはさん、起きているの? 」


「貴方!? 」

 

 揚羽は、障子を開け、御園みそのに抱き着く。

 トンボの浴衣を着た御園は、いとおしそうに揚羽の髪を撫でる。

 

「貴方、今すぐここから出たいの……ここはとっても怖くて、このままここに居たくない」

 

 御園は泣きじゃくる、揚羽をさとす。


「揚羽さん、僕達を守るものは、この中にしかないんだよ……」

 

「だから……決してこの屋敷から出てはだめだ……いいね、わかったね」

「約束だよ」


 そういい、御園は一粒の涙を流す。

 しかし揚羽は、その涙には気づかないのだった。


 御園は、揚羽が眠りにつくまでそばにいた、彼女が安心して眠りにつくまで。


 正しさについて考えればこのまま、君を置いて置くと言うの許されない事かもしれない……。

 それでも……美しく儚い揚羽の傍に居たいという思いと、彼女との生活はおわりの時が近いという事実が、彼の心を波立たせた。

 


 揚羽は、目を覚ました時、辺りは暗く夜だと言う事がわかった。

 雨の音はしない……。

 障子を開けると、赤い月が空に大きく輝いていた。

 彼女をまるで誘うように……。

 気が付くと彼女はに駆けだしていた、森の中へ。

 

 「アハハハハァハァ」

 

 彼女の笑い声が森を木霊する。

 赤い月が無数の蝶になって、彼女の周りを飛び回り彼女の中に消えていった。

 

 揚羽が体をくねらせ空を舞うと、彼女は赤いアゲハチョウになっていた。

 

「赤い赤いアゲハ蝶、彼女は人々に死をまき散らす……」

 御園は、大きな一本杉から彼女を見ていた。


「それでも、好きなだったあの赤い残酷な風景の中で、君だけがただ愛するものだった……」


「でも……、僕の中の正しさが、君を、僕の愛を殺す時が来たようだ……」


 そう言うと、彼の着物とトンボが一斉に飛び立ち、彼の愛するものを撃ち落とした。

 アゲハ蝶だったものはバラバラになって消えていく。

 

「みそのさん……」

 その声が彼の耳まで届いたのだろうか?


     おわり

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つかの間 もち雪 @mochiyuki5

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