あんたとシャニムニ踊りたい 第1話「みんな」

@aonocallisto

第1話ー① 「みんな」

 ーなんで、ひよちゃんはいつもひとりなの?


 ーだめだよ、ひよちゃんはすぐはくもん。げろっちだから。


 ーげろんちょ、がっこうこないね。


 ーひよちゃんのせいだ。


 ーひよちゃん、なんでがっこうにきてるの?


 ーひよちゃんって、べんきょうばっか。あんなこじゃなかったのに。


 ーひよちゃんのせいなのにね。


 ーひよちゃん、しねばいいのに。


 ーみんな、あいつのせいだ。


 ーひよちゃんがいなければ、げろんちょにあえるのに。


 ー勉強以外、価値のないお前に友達なんていらない。お前は勉強だけしてればいいんだよ。だから、お前はー


 「はっ・・・」


 深夜三時、私は目が覚めた。 彼女こと、暁晴那に友達宣言される数時間前のこと。 汗を尋常に掻いていた。

 布団は汗まみれ。下を確認したが、特に異常は無かった。 

 それなのに、私の心臓の音はいつまで経っても落ち着かない。


 ダイニングに向かい、ウォーターサーバーの水をコップに注ぎ、一気に飲み干し、心を落ち着かせた。 最近は観てなかった悪夢。どうしてかと言われたら、察しはついている。

 やはり、本心は、学校に行きたくないことへの暗示なのだろうか? 

 欲を言えば、学校に行きたくは無い。あんな思いは二度とごめんだ。 

 しかし、此処で逃げ出せば、私はあの頃の自分に向き合えないかもしれない。 私には彼女がいる。今すぐに信じることは出来ないけれど、今は彼女がいることが何よりも、心強く、頼もしいと思えた。


 はずだったのに・・・。


 「羽月、L○NE教えて!」 

 友達宣言が終わり、ホームルーム後の教室。 彼女こと、暁晴那の何気ない一言が私を襲った。


 「お断りします」

  躊躇いもなく、私はその言葉を口にして、軽く舌を噛んだ。


 「な ん で ?」


 「私、まだあんたを信用してない。それに私・・・」 

 本当は手放しに信じたい、信じたいけれど、やっぱり、まだ、すぐには信じられなかった。


 「分かった、いいよ。またの機会にね」


 「良かったわね、羽月さん。その女はスマホ持ち歩かないし、LINEの返事なんて、全然帰って来ないの。家の電話じゃないと連絡出来ない女だから、交換する価値なしなのだわ」


 矢車さんは何事も無かったかのように、自然と私の前に現れた。


 「L○○Eはやってるのよね?」 

素直な疑問に暁は笑みを浮かべながら、答えていた。


 「いやぁ、面倒くさいんだよね、アレ。通知はうるさいし、面倒くさいし、既読したしてないで、いちいちうるさいし。そう思わな?」


 これはガチのヤツだ。流石にそう思った。 


 「は、あははははは~、じょ、冗談だってば、冗談」


 返信しない奴と友人なんて最悪だった。友人は居ないけど。


 「ところで、羽月さん?」 自然な流れで、矢車さんは私に挑戦的な目で言葉を発し始めた。


 「次の期末テスト、私と勝負なさい!」


 「いやですけど」


 「えっ・・・ここはいいでしょうの流れじゃ・・・」


 「私に一度も勝てない人にそれ言われても・・・」


 矢車天の表情は硬直したまま、動くことは無かった。


 「ひよっち、流石にその言い方は無いんじゃ・・・」


 「はっ!!!」 

 加納さんの言葉に私は我に返っていた。

 彼女は暁ではない。つい、友達の感覚で話してしまったことと空気の読めない言動に私は恥ずかしくなった。 こんなんだから、私には友達が出来ないんだろうな。


2


 移動教室へ行く最中、暁から、とんでもない一言を言われた。


 「今度、カラオケ行かない?テスト終わってからでいいから・・・」


 その時の私を見ていた加納さん曰く、怒り狂ったフレンチブルドッグという的を得ているような、得てないような?

 暁はその場を後にした。


 「ひよっちさぁ、そんな断らなくてもいいじゃん。折角、暁さんといちゃつけられるのにぃ」


 「私は1人カラオケが好きなの。皆と歌うことの何が楽しんだか」


 「そんなんだから、友達が出来ないんじゃない?」


 ガツンと一言言って来たのは、同じクラスのモブ顔だった。


 「あんた、晴那がどんだけ、あんたを待ってたか、知らないの?あんた、何様のつもりなの?あいつを傷つけるようだったら、茜、あんたを許さない、あんたと刺し違えてでも、あんたを」


 「やめなさい、茜。晴那がやりたくて、やってることなの。それが分からない貴女じゃなくて?」


 「だって、こいつが悪いんだ。晴那の気持ちを踏みにじりやがって。こいつなんて、こいつなんて」


 「死ねばよかった?」


 私の言葉にモブ顔の何かが切れたように見えた。


 「そうだよ、お前なんて、お前なんて」


 「ヤメテ、アカネ、アカネ、ソンナコトバキキタクナイ」


 「お前は黙ってろ、エセ外国人。みんなは許しても、朱音は認めないから」 モブ顔はみんなを引き連れ、理科室へと向かって行った。


 「うわぁ、アカネ、乱れてる。青春してるわぁ」


 「寒すぎて、凍え死にそう。夏なのにね」


 「寒すぎて、死んじゃうゥゥゥ、きゃはははははは」


 後ろから聞こえる声で話す傍観者たちの声に対しても、私の心は凪のように、穏やかだった。


 「気にしないで。みんな、びっくりしてるだけだからさ」


 「そうだね」 

 自然に私は軽く舌を噛んでいた。


 モブ顔の言うことは正しい。私なんて、死ねばよかったんだ。 死因はみんなの輪を乱したから。私という異物をみんなは許さない。 私は彼女の言う通り、私はあの夢のように、死ねば良かったのかな?


 そんなことがあっても、何も知らない暁の表情はいつもの笑顔で、陰惨な空気を吹き飛ばしてしまう。 晴れ晴れとしていて、私はとても怖かった。とても、怖かったんだ。

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