【こういう時間も悪くないよねって話】

「おばちゃん、瓶ジュース2本頂戴!1本はオレンジジュースで、もう1本はコーラね!」

カララ、と引き戸を開けるのと同時に声に出す。

駄菓子屋のおばちゃんは慣れた様子で

「はいはい、ちょっと待ってね。」

と言い、よっこらしょと椅子から立ち上がった。

店の脇に流れる小川でキンキンに冷やされたそれは、この時期になると近所の子供たちがこぞって欲する夏の風物詩だ。

「はい、2本で300円ちょうどね。まいど〜。」

おっとりとした様子で瓶ジュースを渡してくるおばちゃんにありがとう!と礼を言って私はそのまま店の外の軒下にあるベンチに向かった。


「お待たせ、はいコレ。」

先にベンチに座っていた友人にオレンジジュースを渡す。

「ありがとー!わぁ、冷たくて気持ちい〜!」

「ここ来るまでマジで暑かったもんね。まだ残ってて良かった!」

「ほんとだね〜。もう暑くて暑くて溶けちゃうところだったよ。」

「溶けるのは流石にヤバいって。」

なんて2人でくすくすと笑い合う。

栓抜きを使い慣れた手つきで栓を抜く。そしてふたりでカンパーイなんて言ってカチンと瓶と瓶を軽くぶつけ合わせた。

隣でポニーテールを揺らしながらごくごくとオレンジジュースを飲む彼女は、凄く幸せそうな表情をしている。

私もそんな彼女を見ながら、冷えたコーラをこくりと飲んだ。

「はぁ〜、美味しい〜!

やっぱり夏と言えばこの駄菓子屋の冷えた瓶ジュースですなぁ。」

ひと息でオレンジジュースを半分も一気に飲み彼女は言う。

「それ私のお父さんも同じような事言ってたわ。"夏と言えばキンキンに冷えたビールだよなぁ"って。」

そうやって軽口を叩く私に彼女は

「え〜、でもだってそうじゃない?暑い夏に火照った体で飲む冷たい飲み物って超最強じゃん?

絶対人類みーんな同じ事思うって。」

なんて真面目な顔して言ってきたのが可笑しく感じてしまって。

「人類て、スケール大きすぎでしょ。」

私は抑えきれないようにケラケラと笑ってしまうのだ。


笑う私を見ながら彼女もまたふふ、と笑い瓶ジュースに口付ける。私もまたこくりとコーラを飲み出した。

「炭酸あんまり得意じゃないのにいっつもここではコーラ買ってるよね。」

不意に彼女から投げかけられる。

「まぁ、得意じゃないからって嫌いでもないからね。と言うかむしろ好き。しかもコーラの瓶ジュースってなんかめっちゃロマン感じない?」

私の言葉にあー、分かる〜。と彼女は言ってきた。

「昔のコーラって瓶だったしね。てか昔の飲み物はどれも瓶に入ってたけど。でもコーラはその印象特に強いよね。なんて言うか、ノスタルジック?」

「そうそれ。」

そう言って彼女に両手で人差し指を向ける。

「エモみってやつを感じちゃってるんですよー。」

なんて言ってまたケラケラと笑った。


頭上でチリンチリンと涼やかな風鈴の音が鳴る。

「風情ですなぁ〜。」

「これもまたエモいってやつですねぇ〜。」

瓶を両手に持ちながら気の合う友人と気の抜けた会話をする。

そういう時間も心地良い。

これもまた、私たちのひと夏の思い出になっていくのだろうな。なんて思いながら、またひと口こくりとコーラを飲み込んだ。

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