異国の王子を救ったら彼に惚れられてしまいました。私の可愛い近衛騎士様は王子に対抗心を燃やしているようです。そんな、あなたが本当に可愛い
あげあげぱん
第1話 死に戻りからの反撃開始
我が国へ留学に来ていた異国の王子が毒殺された。
パーティーの場で血を吐きながら亡くなる姿は壮絶なものだった。毒を盛った犯人は姿をくらまし、息子を失った異国の王への弁明ははね除けられた。異国の王の怒りは私たちの国を滅ぼすことになる。
異国ファラミッドは私たちの国を許さなかった。大きな戦争が起き、私の父は戦死した。都は燃え、もはや私の命も長くはないだろう。異国の王は父の血筋に連なる者を許さない。
兄は国を逃げ出した。彼が無事に逃げ切れたかは分からない。だが、彼のことなどどうでもいい。最後まで情けない人だった。
私は民を置いて国から逃げるつもりはない。かといって死ぬ前に辱しめを受けるつもりもない。我が国フラムの姫として、私マリーは誇りのある死を選ぶ。
数々の高級な家具が並ぶ宮殿内の私室で、私は過去を振り返っていた。
「シャルル」
私は傍に立つ近衛騎士を見た。椅子に座った状態から見上げる銀髪の彼は、燃え落ちようとする国の中でも凛として美しい。
「はい。姫様、なんなりと」
いつ部屋に敵兵が入ってきても良いように、シャルルは気を張っている。部屋の扉を睨み付けながら彼は私の言葉を待っていた。
「私は、時戻りの短剣を試すわ」
ドレスの上、膝の上に置かれた短剣は我が国に伝わる秘宝。はるか昔、自らの心臓を突き刺した姫を願った過去へ戻したと伝わっている。ただ、それはあくまで言い伝えなのだ。過去へ戻れると伝わっているが、確実な保証はない。
「過去へ戻れるとしても、心臓を刺す必要がある。今、この場所に居る私は死ぬことになる。だから」
続きの言葉を口にするのに、私は少し戸惑った。だけど、決意を込めて彼に言う。
「さよなら。シャルル」
「いいえ。姫様」
シャルルは相変わらず部屋の扉を睨んでいたけど、その言葉は優しかった。
「さよならではありません。また会いましょう」
「……そうね」
彼は私が戻るべき時へ戻れると信じている。ならば私も、私を信じる彼を信じよう。
「ええ、また会いましょう」
私は膝の上に置かれた短剣を手に取り、鞘から抜いた。短剣を自らに向けて構え、異国の王子が亡くなった日のことを強く思い浮かべる。
「過去へ戻れたら、私はすぐあなたを頼るわ」
「どんな時でも、僕は姫様の剣であり、盾です」
「頼もしいわね」
短剣を持つ手に汗がにじむ。国のためなら死ねる。と言っていても、いざ自らの心臓に刃を突き立てるのだと思うと、さすがに平常心を保つのは難しい。
でも、覚悟はできているんだ。私は大きく息を吸い込み、吐く。
「あの日へと、行ってくるわ」
一気に自身の心臓へ刃を突き立てた。最後にシャルルが何かを言っていた気がしたけど、はっきりとは分からなかった。
一瞬、世界が暗転し、気がついた時には私室の鏡の前に居た。ネグリジェを着た私の胸に時戻りの短剣は刺さっていない。血の一滴すら確認できなかった。
部屋の窓にはカーテンがかかっている。私は窓に近づきカーテンを開ける。部屋に日の光が差し込み、太陽の位置から今が朝であることが分かった。
扉の外に見える都は平和な、活気ある場所だ。その事が示すのは。
「……戻ってきたんだわ。過去のフラム王国に」
私は足早に動き、部屋の扉を開けた。そこにはシャルルの姿があり。彼は何事かと目を丸くしていた。
「姫様!? なんでネグリジェで!?」
「そんなことはどうでも良いの! 私の話を聞きなさい!」
ビシッと指差すとシャルルは慌てた様子で、私から目をそらしながら。
「とにかく! とにかくお召し物を着てください! メイドを呼ばせますから!」
話を聞いてもらえる雰囲気ではない。さっきまであんなにかっこいいことを言っていたのに。今は年相応に少年らしい。
「分かったわ。でも、服を着たら話を聞いてもらいますからね」
それから、ひとまずメイドを呼んで着替えをする程度の時間が経つ。シャルルを私の部屋に入れた。メイドには出ていってもらい、私とシャルルの二人きりだ。
「シャルル」
「はい、姫様。なんなりと」
さっきまでは私のネグリジェ姿に慌てていたシャルルだが、今は平静を保っているように見える。
「念のために、だけど今日は何年の何月何日?」
シャルルは不思議そうにしながらも質問に答える。彼の言葉を信じるなら、私は異国の王子が毒殺された日へと戻ってこられたようだ。
「聞きなさい。今から未来の話をするわ」
私はシャルルに今日起こること、そして未来で私が時戻りの短剣を使用したことを話した。目の前の彼は驚いてはいたが、私の話を疑うことなく信じてくれた。
「シャルル。私が言うのもなんだけど、こんな話をよく信じてくれたわね」
「時戻りの短剣の言い伝えは僕も知っていましたから、それに」
シャルルは表情を変えることなく私の目を見て言う。
「姫様が僕に嘘をついたことはありませんから」
「……嬉しいことを言ってくれるじゃない。私の義弟じゃなかったら惚れてるかもね」
私の言葉に対し、シャルルはわずかに頬を紅くした。ほんと可愛い近衛騎士だ。
「しかし、未来のフラム王国が滅ぶなんて」
「私たちはその未来を壊すために行動するのよ」
「分かりました! やりましょう!」
シャルルが味方でいてくれて心強い。
「それで姫様。これからどうするのですか?」
「決まってるわ。ヌビス王子が死ぬのを防ぐ。今夜のパーティーで彼が毒殺される過去を防ぐのよ。いや、今の時点から見れば未来のことか」
「分かりました。僕も手を貸しましょう」
やはり、シャルルは頼りになる。悩むことなく私に手を貸してくれるようだ。
「それで姫様。ファラミッドの王子が暗殺されるのを防ぐため、何か策はあるのですか?」
「私は未来からやってきたのよ。策を練る時間は十分にあったわ」
「分かりました」
シャルルは頷く。
「その策は僕が聞いてもよいものですか?」
「ええ、むしろシャルルには、協力してもらうために聞いてもらわなくては」
私はシャルルに策を話す。彼はその策をすぐに理解する。
「姫様の策、分かりました。このシャルルにお任せください」
「あなたには危険な役目を任せることになるわ」
危険だけど、危険だからこそ、私よりもシャルルが適任だ。戦争を起こさないため、なんとしても策を成功させなくてはならない。
シャルルは私を安心させるように微笑み。
「どんな時でも僕は姫様の剣であり、盾です」
頼もしいことを言ってくれる。ならば、私は彼を信じて動く。
「さあ、今夜が勝負よ」
時は経過していく。そもそも今日のパーティーを中止させてしまえば、今日のヌビス王子の暗殺は防げるだろう。とはいえ、それでは根本的な解決にならない。
パーティーを中止にしてもヌビス王子の暗殺を狙う刺客は次の機会を待つだろうし、今回の暗殺は何が起こるか私は知っている。ならば未来から来たというアドバンテージを使い、暗殺を直前で防ぐ。そうして、確実に犯人を捕らえるのだ。
事前に準備を進める。私が未来から来たことを父にも伝えた。父は驚いていたが、私の言葉を信じ、準備に必要なものを用意してくれる。
そうしているうちに夜が近づいてきた。パーティー用のドレスに着替え、化粧をし、私はパーティーの会場に向かう。
私の傍をシャルルが歩く。私の近衛騎士は今、周囲を警戒しているだろう。私も周囲に気を払ってはいるが、シャルルほど鋭敏に回りの変化には気づけない。
「シャルル……頼りにしてるわ」
「はい。任せてください」
宮殿内のパーティー会場に到着する。これは私の兄の誕生記念日を祝う会だ。父が主催した。会場には、招待された客人たち。重要人物を守るための近衛騎士。そして食事のお世話をする給仕たちの姿。
この中に、異国の王子を毒殺した犯人が居る。
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