第336話 つなぐ -5-

お稲荷さんが・・・夢枕・・・?

一体どういうことなのだろう。


「え・・・?お父さん・・・?」


多分すごく訝しげな顔をしていたのだろう。もう一度ハハッと笑った父は、


「・・・ここ三日くらいかな・・・毎日お稲荷さんが夢に出てきてな・・・」


そう言って、父が話し始めた夢の内容によると、ここ数日、夢なのか現実なのか曖昧な状態の時に、言葉を発する光の柱が現れて、話しかけてくるそうなのだ。


その光の柱は白い狐を連れていて、それを見た父は、その光の柱は、宇迦之御魂神うかのみたまのかみなのではないかと思ったらしい。

しかし、名前を教えてもらおうにも、『それは今重要なことではない』というだけで、結局教えてもらえず、それでも父の中では確信に近いものがあり、お稲荷さんだと信じている、のだそうだ。


そして、その「お稲荷さん」は、夢の中で父にこう伝えてきたのだという。


近々娘はあやかしの男を連れてくるだろう。ちゃんとした家の出で、素行も良い。

娘との婚姻を望んでいるが、心配は無用である。娘はその男と所帯を持つことで、末長く幸せに暮らすことになる。

また、一族もより繁栄するだろう。


そう言われた時、父としては当然驚き、あれこれと質問攻めにしたものの、


『時がくればわかる。そして、その時はすぐに訪れる。』


としか言わないらしい。


そんな夢が三日続き、さすがにただの夢だと言ってはおられず、本人(私)に確認しようと思ったところで久々に家族揃っての食事となった。


ただ、どう切り出したら良いか分からず、さりげなく話を深掘りしていったところ・・・


「この世界の人では、ない。そう言われたので、妙に納得してしまってな。」


と、笑った。


そう説明されても、私はまだちょっと理解が追いつかず、


「お父さんって・・・いつもそんな夢見てるの?」


率直に疑問を投げかけると、


「いや。今回が初めてだ。それまで、確かにそういった存在を感じることはゼロではなかったものの・・・お母さんのように視覚的に見えるわけではないからな・・・あまり確信はなかった。」


あら、そうなの?と呑気につぶやく母を横目に、私は質問を続ける。


「なんでその存在をお稲荷さんだって思ったの?」


その問いには「本当にお稲荷さんなの?」という疑いは含んでいない。

なぜなら、ご本人はお稲荷さんの名を騙っているわけでもないし、その上で私と蒼月さんの結婚を後押しするような発言をしていることを考えると、おかしな存在である可能性は低いと見たからだ。

その上で、父がその存在を宇迦之御魂神うかのみたまのかみなのではないかと確信した理由が知りたかった。


「ああ・・・それはな・・・お父さんが稲荷社でしかやらないことを、ご存知だったからだ。」


(どういうこと・・・?)


「いやあ・・・改めて言うのも恥ずかしいんだが・・・お父さん、稲荷社を掃除するときに必ず口ずさんでる替え歌があって・・・」


「え・・・?」


「その替え歌のことを言われたら、もう、そう思うしかなくてなあ・・・」


替え歌・・・お父さんが・・・?

思わず吹き出しそうになるのを堪えていると、


「どんな替え歌なの?」


と、すかさず母が父にツッコむ。


「いや・・・恥ずかしいから・・・」


「そんな恥ずかしい歌をお稲荷さんのところで歌っているの?」


「そういう恥ずかしいじゃなくて・・・」


母にツッコまれて父がタジタジという、ある意味日常のやり取りを眺めていると、


「・・・迷子の迷子の子ぎつねちゃん、あなたのお家はどこですか・・・」


弱々しく歌い出した父と、その内容に脱力する。


「お父さん・・・」


「あら、かわいい・・・」


父の耳が赤くなっていて、本気で照れているのがわかる。


「で・・・『ずっと思っておったのだが、迷子になっておるのは、うちの狐たちではなく、おぬしであろう』と言われてな・・・」


(ああ・・・笑)


「なんか・・・ごめん・・・」


居た堪れなくなって私が謝ると、父はコホンと咳払いをして気力を持ち直した後、


「・・・というわけだ。で、琴音の話はまだ終わっていないんだよな?」


急に話を戻してきたから、


「ああ、そうなの。で、近いうちに、その人に会って欲しくて・・・」


と伝えると、


「その・・・なんだ・・・結婚、するのか?」


私の目をじっと見てそう尋ねた父に、私はコクリと小さく頷くと、


「はい・・・結婚したいと思っています。」


と、告げた。


その場に少しだけ沈黙が流れる。

反対されるかも?と思っていた時とはまた別の緊張感で私が視線を落として身を固くしていると、父は小さくため息をついた。


「そうか・・・」


次の言葉が少し怖い。だけど・・・続いた父の言葉は、


「もう嫁に行ってしまうのか・・・さみしいなあ・・・」


(え・・・それって?)


嫁に行く前提でのその言葉を聞いてふと顔を上げると、私を見ている父の顔は悲しいのかさみしいのか、はたまた嬉しいのかよく分からない表情で、


「たまには顔を見せにきてくれるのだろうか・・・」


なんて言うもんだから、


「あ・・・あの?それは・・・」


念の為にどう言う意味の発言かを確認しようとすると、


「いつ、連れてくるんだ?」


そう聞かれて、


「じゃあ、明後日にでも・・・」


父が賛成寄りでいてくれるうちに進めたいと思った私は、蒼月さんの予定も確認することなく、即答してしまった。


(って言っちゃったけど、大丈夫かな?まあ、いつでもって言ってたから大丈夫だと思うけど・・・)


明日は陰陽院の見学に行く予定なので、明後日にしてもらう。

すると、母が会話に入ってくる。


「お嫁に行っちゃって、いいの?」


(そこ!ちょっと気になってた!)


すると、父はなんてことないように微笑むと、


「嫁でも婿でも、琴音が幸せになるなら、どちらでもいい。」


そんなことを言うから、さっきまで全然しんみりしてなんていなかったのに、一気に心が揺さぶられてしまって、みるみるうちに瞳が涙でいっぱいになった。

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