第86話 蒼月邸での鍛錬 -26-
手元のメモ書きを見ながら
「琴音は瞑想には結構慣れていそうだけど、好奇心が強いのか、興味をひく音があると意識が散っちゃうんだね。」
あっという間に見透かされて驚くやら恥ずかしいやら・・・
「でも、まあ、鍛錬は始めたばかりだし、朝の鍛錬もそうだけど、繰り返していくことで色々と慣れてくると思うから、これからも頑張ろうな!」
子供みたいなナリをしているくせに、一人前の先生みたいだ。
「はい、これからもよろしくお願いします。」
しかし、私はもちろんここでは生徒の側なので、素直に頭を下げる。
「じゃあ、次は、持久力の鍛錬だ!」
ついに、例の「屋敷で鬼ごっこ」の時間がやって来る・・・絶対ただの鬼ごっこじゃなく、何をさせられるか分からないこの不安。
「ん?なんでそんな不安そうな顔してるんだ?」
「いや・・・だって・・・」
「次は楽しい鬼ごっこだぞ!」
「いや・・・それはやってみないとなんとも・・・」
そうやって渋る私を気にも止めず、
「ルールは簡単!どんな手を使ってもいいから、捕まらずにこの建物の外に出れば鬼ごっこは琴音の勝ち!ただし、庭に面している窓や廊下の引き戸が開けられるようになっている場所とそうでない場所があるから、それは毎回試してみないと分からないぞ。」
聞いているだけだと簡単そうだけど、おそらくそんなはずはない。
「琴音はまだこの家の間取りとかわかんないもんな。これ、持ってていいよ。」
そう言って渡された間取り図を見る。間取り図には文字や図形も書き込まれている。
どうやらスタート地点は私の部屋の前の廊下のようだ。
「ねえ、この記号はなあに?」
いくつかの部屋には「×」や「○」が、それ以外にもあちこちに「!」と書き込まれているのが気になって尋ねると、
「お、いいところに気がつきましたねえ。×が付いている部屋は入れないようになってるんだ。たとえば、蒼月様の部屋や食堂とかね。○がついている部屋は・・・ちょっとした情報が隠されてる部屋だよ。」
とニヤリと笑う。それから、
「!のところは気をつけてね。何が起こるかは行ってみてのお楽しみ〜〜!」
とさらにイタズラっぽい顔で笑う。
ほら、だから言ったじゃん。普通の鬼ごっこのはずがない、って。
わかってた!わかってました!!
それでも、なんだか謎解き要素まで加わった鬼ごっこに覚悟を決めて、
「りょうかーい。いい加減覚悟を決めたよ・・・」
とため息まじりにそう言うと、
「それでこそ琴音だ!ほい、それじゃあ、スタート地点はここな。」
と、部屋の外の廊下に誘導された。
「とりあえず・・・頑張ります・・・で、私は逃げる方だとして、追いかけてくるのは
「琴音、何言ってんだ?鬼ごっこだぞ?」
思っていたのとは違う答えが返ってきて、はてなマークが頭に浮かんできたその瞬間、
「じゃあ、始めるか!あ、捕まえたら食べていいって言ってあるから、しっかり逃げろよーーー!!」
「うっそ・・・・・!」
(あの子、捕まえたら食べていいって言ってあるから・・・って言わなかった!?)
「おおおおおお〜〜〜!!オラの大好物〜〜〜〜〜〜!!食わせろ〜〜〜〜〜!!」
見るからにヤバそうな大きくて筋骨隆々の赤鬼が物騒なことを叫びながら、廊下の端からこちらに向かって突進してくるのが見えた。
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