第85話 蒼月邸での鍛錬 -25-

目を閉じて深呼吸を繰り返す。

どのくらいそうしていただろう・・・1分なのか3分なのか時間の感覚がわからないまま吸って吐いてを繰り返す。

ほむらくんの言っていた「邪魔」は今のところまだ入っていない。


そのまましばらく余計なことは考えず、呼吸だけを繰り返す。最初はあれこれどうでもいいことが頭に浮かんでくるものの、しばらくすると平穏と無が訪れる。

私は多分人より瞑想することに慣れていて、それはただ単に実家の神社でたまに瞑想会というのをやっているからだ。

主催は母だけれど、時間が合えば大体私も参加している。


今もそんなことを考えているからまだ瞑想状態には入っていないのだけど、そろそろ無になろうかと思い無駄な意識を手放して少し経ったくらいに、


「みゃお〜ん・・・」


突然近くで猫の鳴き声が聞こえ、あっという間にそちらに意識を取られてしまった。


「琴音・・・気が揺れてる。」


わかってる!!まんまと引っかかった私に、(目を閉じているから姿は見えないけれど)ほむらくんがしたり顔でそう言ったであろうことはわかっている。


改めて深呼吸を繰り返す。そうしてまた瞑想状態に入って少し経つと、ほむらくんが色々な音を出して注意を逸らそうとしてくる。

けれど、私も負けじと気にせず集中を保つことだけを考え、ここまではなんとかほむらくんからの指摘を受けずにやり過ごすことができている。


そこからどれくらい時間が経ったのかわからないくらいこの状態を保っていたけれど・・・


プップー!ザワザワザワザワ。ブロロロロ・・・


なぜか人間界の大通りでよく聞く雑踏・車の騒音、信号が変わる時の音などが聞こえてきて、


「琴音・・・また気が・・・」


「これはずるくない!?」


忘れかけていた人間界の音を聞いて、無視できるはずがない。

思わず目を開けて抗議をすると、


「何事にも冷静で集中あるのみ。言い訳無用。」


妙に先生の顔をしたほむらくんはバッサリとそう言った後、


「いつか使おうと思ってたけど、やっと使えた〜〜!」


と一気にイタズラっ子の顔に戻って、嬉しそうに言った。


影渡かげわたりがいなくなる前に人間界に行った友達にもらったんだ〜。」


そういえば、影渡かげわたりさんが行方不明になる前はこちらから人間界に遊びに行けたと言っていたっけ。


ほむらくんは人間界に行ったことはないの?」


さっきの発言から察するに、ないとは思うけれど聞いてみる。


「うん、ないねー。おいらは使い魔だから、主人の依頼や許可がないと外の世界には行けないし・・・蒼月様は人間界に興味なさそうだからな〜。」


何気にサラッと傷付くことを言うではないか笑


「でも、琴音が無事人間界に帰れたら、琴音のところに遊びに行きたいって言えば、蒼月様は許可をくれると思う。」


帰れたら・・・帰れるのだろうか・・・・まあ、それはさておき、


「うん。もし無事に帰れたら、いつでも遊びにおいで!でも、その姿だとみんなびっくりするから、顔は燃やさないでね・・・」


流石にこの姿で現れたらニュースになってしまうので、そう言うと、


「じゃあ、お出かけ用の姿で行く!まあ、顔は元々燃えてないけどな!!」


いつもの返しで笑ってしまう。それから、ほむらくんは、


「じゃあ・・・一息ついたところで、もう一つの瞑想をしてみようか。今度は、瞑想状態を保ちながらあることだけに集中する瞑想だ。」


と、次の鍛錬の説明を始めた。

説明によると、これから鳥の鳴き声、水の流れる音、風の音を流すので、私はそのうちのどれか一つだけに集中すると言うものらしい。


「どれにする?」


ほむらくんにどれでもいいよと尋ねられて、私は「水の流れる音」を選んだ。


「途中でこの3つ以外の音が流れるかもしれないけれど、とにかく今選んだ音だけに集中しててね。」


今度はその状況をどう図るのだろうと思っていたけれど、やはりこの吊るされた木の実で分かるらしい。

妖術ってすごいよね。


と言うことで、2つ目の鍛錬が始まり、私はまたもや瞑想状態に入るべく、目を閉じて深呼吸を始めた。

瞑想が始まると、静かな環境にまずは鳥の鳴き声が響き渡った。すぐに水の流れる音がそれに加わり、落ち着いたリズムで私の耳を撫でる。風の音も間もなく加わり、三つの自然音が絶妙なハーモニーを奏で始める。


(あ〜、心地いいな〜〜・・・このまま寝そう・・・)


そう思いつつも、一生懸命水の音に意識を合わせる。すると、少しして鳥の鳴き声が何かのメロディーを奏で始めて、なんのメロディーだったかな?と気になり始めてしまった。


「はい、ダメー。そっちじゃないでしょ!」


私のほんの少しの意識の揺れをほむらくんは簡単にキャッチした。

また、風が強くなりすごい音を響かせ始めてそちらが気になってくると、同じように指摘される。


意外と簡単そうで難しいこの鍛錬をしばらく続けたあと、徐々にこれらの音が小さくなっていき、


「はい、ここまで。」


ほむらくんから鍛錬終了を告げられた。

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