第81話 蒼月邸での鍛錬 -21-

食堂で話そうと言われ、二人で食堂に向かう。

私はというと、巾着は部屋に残し、輝夜石かぐやいしだけを握って廊下を歩く。


「おお、参ったか。」


私たちが食堂に入ると、小鞠さんがお皿片手に嬉しそうに言った。


「今日はきつねうどんじゃ。」


そう言って手に持っていたお皿を食卓の上に置く。お皿の上には大きくて分厚い油揚げが何枚も載っていて、お揚げからは美味しそうな出汁の香りが漂ってくる。


「小鞠様のきつねうどん、大好きー!」


ほむらくんがお皿を覗き込んで嬉しそうに叫ぶのをこれまた嬉しそうに聞きながら、小鞠さんがみんなの目の前にうどんを置いた。


「琴音殿。薬味やお揚げは好きなだけ載せてよいからな。」


なるほど、そう言う仕組みなのですね。

薬味やお揚げを交互に見ている私を横目に、ほむらくんはネギやお揚げをうどんに載せ終わると、


「いただきまーす!蒼月様も大好物なのに、いなくて残念!」


と言ってうどんを食べ始めた。


(きつねうどんが大好きなんてかわいいな。)


そんなことを考えながら、私も薬味とお揚げをうどんに載せて、いただきますをする。


「蒼月さんはお昼は帰ってこないんですね。」


そういえば番所でも夕方まで帰ってこないことを思い出して聞いてみると、小鞠さんは、


「蒼月は昼はほとんどヒョウカのところで食べておるからな。」


と言った。それを聞いて、ヒョウカってなんだ?と考えていると、小鞠さんは「そうか・・・」と小さく呟いた後で、


「氷の華と書いて、氷華じゃ。雪女の氷華にはまだおうたことがなかったかえ?」


と続けた。


雪女の氷華さん・・・うーん、と記憶を辿ってみる。すると、雪女かどうかは定かではないが、番所で蒼月さんを涙目で見上げていた美人と繋がった。


「ああ!あの美人さん!はい、あります。雪女かどうかまで存じてませんでしたけど・・・」


「おお、そうか。まあ、蒼月の周りに氷華と呼ばれておるのは一人だけじゃ。多分そやつで合っておる。」


そう言った小鞠さんも、きつねうどんを食べ始めた。


ほぼ毎日昼に会っていると言うことは、やはり恋人なんだろうな。番所でのお似合いの二人を思い出して複雑な気持ちになる。


(ああ、もう!今はこんなことで傷ついてる場合じゃない!強くなるのが先でしょ、私!)


心の中で自分に喝を入れて、うどんを啜る。


「うわ!このおうどん、すごく美味しいです!」


もちもちのコシとよく効いた出汁の味がとてもマッチしていてすごく好みの味だ。


「そうじゃろう?うどんは自家製じゃからな。」


そう聞いて、驚いた顔になる。


「ははは、捏ねたのはわらわではなく使い魔たちじゃがな。」


なるほど、なんとも便利な使い魔たちだ・・・

お揚げの甘辛い味のしみ具合も最高で、蒼月さんやほむらくんが大好きだと言うのも納得の味だ。

結局お揚げをおかわりまでして、大満足の昼食だった。


そんな私を見て、ほむらくんは


「な?小鞠様のきつねうどんは最高だろ?」


と自慢げに言った後、


「じゃあ、お腹も膨れたところで、輝夜石かぐやいしの話をしようか。」


と言った。それを聞いた小鞠さんも、


「なんじゃ、面白そうじゃな。わらわも混ぜてくれぬか。」


とワクワクした顔で言い出して、三人で本日2度目のお茶の時間を過ごすことになった。

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