第73話 蒼月邸での鍛錬 -13-

お言葉に甘えて朝湯をいただいてから食堂に顔を出すと、私の他には小鞠さんしかいなかった。


朝餉あさげみなバラバラにやってきて好きなように食べていくからの。たいていこの時間には米と汁物、ちょっとした温かいおかずは用意できておるから、琴音殿も好きな時間に食べに来るがよい。」


そう言って、冷蔵庫(氷槽ひそうの様だけど少し違う)の中にある惣菜を指さすと、


「この中のものも好きに食べてよいからな。」


ごはんのおかずやおにぎりの具にできそうなものをいくつか見せてくれた。

この十分すぎる施しにどうしたら報いることができるのか・・・


「小鞠さん・・・昨日も言いましたが、お世話になりっぱなしだと心苦しいので、何か私にできることはありませんか?」


たまらずに聞くと、小鞠さんはふふっと笑った後でこう言った。


「と言うてもなぁ・・・この家は昔からわらわの趣味の裁縫と炊事以外はほぼ自動でなされておるからのお・・・」


自動・・・?どうやって自動化しているのだろう。

確かに洗濯、湯沸かし自体は妖具があればできるけれど、洗濯物を干したり取り込んだり、掃除する場所に掃除具を持って行ったりと、一旦は人の手がかかるのでは?

そんなことを考えていたら、小鞠さんが補足をしてくれた。


ほむらのような蒼月の使い魔がやってくれるのじゃ。ほむらは蒼月の身の回りの世話もしている都合上、人の姿をして共に生活しておるが、他の使い魔たちは必要な時だけ姿を現し必要なことをやって消えるので、琴音殿もまだ目にしておらんのだろうな。」


ほむらくんが「人の姿」と言われると、あのボウボウと燃える炎の顔を思い出して違和感しか感じないけれど、小鞠さんが言いたいことはなんとなくわかった。


「こちらの世界はとても便利なんですね。」


妖術でなんでもできるなんてすごいなと思いながらそう言ったのだけれど、小鞠さんは、


「まあ、そんな使い魔の使い方ができるのは、白翁はくおうや蒼月くらい妖力が高い者だけじゃがな。」


と言った後、


「なので、こんなことをしているのはおそらくこの屋敷だけじゃ。」


と笑って、さらにこう続けた。


「そう言うわけで、琴音殿は家のことは一切心配無用じゃ。」


白翁はくおうと聞いて、最初誰だか分からなかったけれど、すぐに長老のことだと思い出した。

それにしても、便利すぎて恐縮してしまう。


洗濯は洗いたいものを部屋にある洗濯かごに入れておけばよいし、お風呂も入りたいと思ったらお風呂を沸かすように念じればよいだけとのこと。

部屋の掃除も勝手にやってくれるらしく、捨てられたら困るものは棚や押入れ、鏡台の引き出しにしまっておくか、書を残しておけばよいと。

洗濯も掃除も部屋に入られたくない時は、入り口の障子の外に札をかけておけばよい、と、なんだかホテルみたいだ。


長老のお屋敷ではそう言ったことは千鶴さんがやっていて、私も少しお手伝いができたけれど、長老も自動化しようと思えばできたと言うことだ。


こんなに甘えっぱなしで良いのだろうか・・・と迷いはするが、それならそれでお言葉に甘えて、今は修行に専念させてもらうことにした。

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