第67話 蒼月邸での鍛錬 -7-
居間を出て廊下の突き当たりを曲がり、少し歩いたところで蒼月さんが立ち止まる。
「この部屋を使ってくれ。」
そう言って、蒼月さんが障子を開く。
案内された部屋を覗くと、広めの部屋が目に入る。部屋の中央には何もなく、壁には薄い緑色の和紙が貼られていて、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「広い部屋ですね・・・」
思わず感嘆の声を漏らすと、蒼月さんは特に表情を変えることなく答える。
「好きに模様替えしてもらって構わない。足りないものがあれば言ってくれ。」
その言葉にうなづきながら、私は部屋の隅に置かれた小さな家具や装飾品に目を向けた。そこには、季節の花が飾られている小さな花瓶や、控えめな木製の棚や鏡台があった。どれもシンプルながらも心温まる雰囲気を感じる。
「はい、お気遣いありがとうございます。」
その言葉を聞いて、相変わらずの蒼月さんは静かにうなづくと
「鍛錬は明日から始める。今日はゆっくりするとよい。」
と、それだけ言って部屋を出て行った。
蒼月さんが廊下の角を曲がったのを見送って、部屋に入る。部屋の隅には私が長老のお屋敷の離れに置いてきた荷物が置かれていた。
その側に自分が持ってきた風呂敷包みを置いて、畳の上に腰を下ろす。
(はぁ・・・思った以上に壁を感じる・・・)
蒼月さんが元々無口であることには気づいていたけれど、ここまで必要最低限の会話しかしてくれないとは思わなかったので、少し凹む。
そして、もしかしたらそれは私に対してだけなのかもしれないという予感もあり、ここで暮らしていって良いのかどうかも迷ってしまう。
(相当迷惑をかけてるんだろうな・・・)
さっきまではあまり気にしていなかったものの、改めてここにお世話になるまでの経緯を思い返すと、自分勝手が過ぎた気もする。
「はぁ〜・・・」
今度は大きなため息をついて畳にうつ伏せに寝転ぶと、い草の微かな香りが気分を落ち着かせてくれる。
荷解きするほど荷物もないし、畳に伏せたまましばらく時を過ごす。
どのくらいそうしていたのだろう・・・しばらくして障子の外から声がした。
「琴音殿、小鞠じゃ。」
その声に、自分がうたた寝をしていたことに気づく。
「あ・・・はい、どうぞ・・・」
寝ぼけた状態のまま返事をすると、身体を起こしたのと同時に小鞠さんが障子を開けた。
「頬に畳の跡が付いておるぞ。」
部屋に入って私を見るなり、ニッと楽しそうな顔の小鞠さん。
「あ・・・すみません。つい眠ってしまって・・・」
よく考えたら昨夜あまりよく眠れなかったからだろう。心地よいい草の香りに誘われて、あっという間に眠りに落ちてしまったようだ。
「謝ることはない。疲れておるのじゃろ。もしよければ屋敷を案内しようと思うて来たのじゃが・・・」
どうする?という顔で私を見る小鞠さんに、
「ぜひ、お願いします!」
やることもないので、思っても見なかった提案に喜んで立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます