第44話 襲来 -6-
蒼月さんはその火球を見据え、冷静に両手を広げて光の結界を張る。その結界は火球を受け止め、まるで吸い込むように消し去った。
「おまえの炎は、俺には通じない。」
蒼月さんの言葉にサイコ・・・というか
「邪魔なのは貴様だ!消えろ、蒼月!!」
蒼月さんは一瞬だけ私に視線を送り、
「絶対に、ここから動くな。」
そう言って、妖狐の猛攻を受け止めるために前に出た。
蒼月さんの周りには青い光のバリアが張られ、妖狐の炎がそれにぶつかって激しく弾け飛ぶ。しかし、蒼月さんは一歩も退かず、逆に妖狐に向かって前進していく。
妖狐は怒りに身を震わせ、さらにその姿は徐々に狐の頭が二つに分かれた獣のような姿に変わっていく。二つの頭を持つ巨大な妖狐が現れ、その目には狂気の光が宿っていた。
「今度こそ、貴様を焼き尽くしてやる!」
妖狐はさらに炎を強め、巨大な火の玉を生成して蒼月さんに向かって放った。蒼月さんは冷静にそれを受け止め、まるで舞を踊るように軽やかに回避しながら反撃を続ける。その動きはまるで一つの流れるような舞踏で、見る者を圧倒する美しさだった。
しかし、妖狐の攻撃は激しさを増し、ついには蒼月さんが押され気味になってきて、心配のあまり、私は目の前の戦いに見入ってしまい、逃げることを忘れていた。
「危ない!」
蒼月さんの声が響き、次の瞬間、私は彼に抱きかかえられていた。彼の腕の中で守られながら、炎の矢と嵐が私たちを通り過ぎるのを感じる。
「・・・ツッ」
小さく聞こえたその声に顔を上げると、腕を緩めた蒼月さんは振り返って妖狐に睨みを効かせたまま、
「いい加減、終わらせるか・・・」
そう言って、私を包むように小さな結界を張ると、ひらりと妖狐のそばに舞い戻った。
妖狐は二つの頭を振りかざし、炎の嵐を巻き起こす。蒼月さんはその攻撃を受け流しながら、鋭い刃のように一閃する。炎と光がぶつかり合い、空間が歪むかのような衝撃が広がる。
「おのれぇぇぇ!」
妖狐は激しい怒りを込めて、さらに猛攻を仕掛ける。二つの頭から炎の矢が次々と放たれ、蒼月さんはそれを回避しながら、相変わらず舞を舞うように華麗に応戦する。
「もう終わりだ!」
蒼月さんの声が響き渡り、彼は一気に距離を詰めた。そして、瞬時に光の刃を形成し、妖狐の胸に突き刺す。
「グアアアアアッ!!許さん・・・許さんぞぉ、蒼月・・・・!!」
妖狐の叫び声とともに、炎が一瞬にして消え去り、巨大な妖狐の姿は薄れていく。そして、妖狐は力を失い倒れ込んだ後、ボロボロと朽ちていくようにして消えた。
その様子をじっと見ていた蒼月さんは、妖狐が消えたことを確認すると、ピューと空に向かって口笛を鳴らし、深く息をつきながら私のもとに歩を進める。
ふと左袖が切れていることに気づき、よく見ると、腕に怪我をしているではないか。
私の側に戻り結界を解いた蒼月さんに、立ち上がって駆け寄る。
「蒼月さん、怪我・・・・!」
私の言葉に「ああ・・・」と感心なさげに自分の腕を見ると、右手で血の滴る傷の上をなぞる。
コピー機の光のように傷が光のベールで撫でられると、驚いたことにその傷は消えていた。
「すご・・・蒼月さんは傷も治せるんですか?」
「この程度なら造作もない。」
そうして頭の上で両手を組んで、ぐっと伸びをする。
「おまえには言いたいことも聞きたいことも山ほどあるが・・・疲れたから帰るぞ。」
そう言って私を見ずに歩き出す。
私はその言葉を受け入れつつも、どうしても滝が気になってしまい、ちょっとだけ!と、三日月にわずかに照らされた地面を、慎重に再度滝口の方へ歩を進める。
どのくらいの高さなんだろう・・・滝好きの私としては、見ないで帰る選択肢はない。
(この、川の流れから滝になる瞬間が堪らないのよね〜・・・)
そんなことを考えながら断崖絶壁の上に立って滝壺を覗き込もうとした瞬間・・・
「わわわっ」
濡れていたのか柔らかかったのか、土に足を取られて滑りそうになる。
(やばい・・・・落ちる!!!)
さっきの妖狐に襲われている時よりも強い鼓動と恐怖を感じるものの、なす術がないまま身体のバランスを崩したその時、
「危ないっ!」
と手を引っ張られ、そのまま滝とは反対方向にバランスを崩した私は、ふわりと暖かい感覚に包まれた。
そう・・・気がつくと、私は、蒼月さんの腕の中にしっかりと抱きしめられ、その胸にすっぽりと収まっていた。
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