第36話 夜市の暴走 -8-

みんなの視線が私に集まる。


「「「・・・」」」


みんながそれぞれ思案している表情で無言のまま私を見つめるから、その空気に耐えられなくなって、私から声を発する。


「その件なんですけど・・・」


今朝の出来事を思い出して、月影さんに視線を向けると、月影さんもうなずいて、ゆっくりと話し出した。


「実は、今朝、琴音ちゃんと再現しようと思って試してみたんですが・・・・そもそも結界自体が張れなかったんですよね・・・」


そう。朝ごはんを食べた後、月影さんと長老の屋敷の庭で再現を試みるも、結果、全くうんともすんとも言わなかった。


「長老の結界のせいでは?」


蒼月さんが当たり前のようにそう問いかけると、


「そう思って門の外でもやってみたんですけど、結果は同じでした。」


ああ、あれってそういうことなの?ちょっと外でもやってみよう、って門の外まで連れ出されて、その理由までは聞いてなかったんだけど・・・

あのお屋敷には長老の結界が張られているのね。


まあ、私、人間だし。


そもそもそんな特殊能力なんてあるはずないから、きっと奇跡的な何かだったんだろう、って月影さんとは話をしていた。


すると、翔夜くんが残念そうに


「ちぇー。もう一回見たかったな〜。なあ。試しにもう一度だけやってみてよ!朝は寝起きだからできなかっただけかもしれないじゃん?」


と、口を尖らせて無邪気に言いながら、立ち上がって「お湯足してくる。」と言って台所に消えていった。


寝起きって(笑)

そんなわけ、あるか!とつっこみたい気持ちを抑えつつ、月影さんをちらりと見る。


「寝起きは関係ないと思うけど、試しにもう一度やってみる?」


そう言われたら、断れない。


「わかりました・・・」


そうして、昨日、焦りながらも試してみたことを思い出しながら、


「守りの結界、張れ…!」


そう唱えて、透明なドームに覆われるイメージをすると、


「・・・・・!!」


昨日と同じように胸元が熱くなり、またもや内側からエネルギーが湧き上がってくるような感覚が広がった。








「え・・・でき・・・た?」


音のある世界から遮断されたような感覚に目を開けると、ゼリー状のドームの中に、私、月影さん、蒼月さんの3人が閉じ込められていた。


「これは・・・」


蒼月さんが周りを見回しながら立ち上がり、結界の中を慎重に歩き回り、内壁に手を当てる。壁に触れた瞬間、彼の眉が一瞬だけ動く。まるで何か特別な感覚を感じ取っているかのようだ。


「できたじゃん!すごいね、琴音ちゃん!」


月影さんも立ち上がり、「うわー」と言いながら、結界の内側の壁をぷよぷよと楽しそうに触っている。


ふと結界の外を見ると、翔夜くんが何かを叫びながら結界の外壁を触っているが、声は結界に阻まれて聞こえない。手のひらを押し付けたり、拳で軽く叩いたりしながら、必死にあれこれ試している様子が伝わってくる。


(いったい、何をしているのか・・・)


翔夜くんは壁をペタペタと触りまくり、急に外壁に大の字に背中から倒れ込むように身体を預ける。身体半分がめり込んだその姿はまるで昨日のだるまのようで、思わず笑いそうになる。


そんな翔夜くんの様子を見ていた蒼月さんが、


「まさか・・・」


そう言って、目を閉じて壁にもたれかかる。


(サービスショット!!)


透明な壁に目を閉じてもたれかかっているだけなのに、色気が半端ない。


(なんなの。なんなの!なんなのーー!!!)


影葉茶の入ったお茶碗を握る手に力が入る。

一生懸命なんでもないふりをしながら、影葉茶を一口飲んでみるものの、


(全っ然リラックスできない!)


影葉茶の効能さえ打ち消す、この蒼月さんの破壊力よ・・・


そうして私が頭を抱えて左右にぶんぶん振りながら雑念を振り払っている間に、いつの間にか再び私の隣に腰を下ろした蒼月さんが、


「結界を解いてみてくれないか?」


私を見て、そう言った。

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