第35話 夜市の暴走 -7-
いつものように授業の後、番所の広間でお茶を飲んでいると、蒼月さんが見回りから戻ってきた。
「「「お帰りなさい。」」」
いつものようにみんなで声をかけると、蒼月さんは軽く頷いて答える。
「ああ。」
そのまま、私には目もくれず、月影さんと翔夜くんと伝達事項を取り交わして奥に入ってしまう・・・かと思いきや、
「では、聞こう。」
蒼月さんは私たちがお茶を飲んでいる卓に座ると、月影さんが差し出したお茶を受け取って、
「まずは翔夜から。」
そう言って、お茶を一口飲んだ。
「あ・・・じゃあ、私はこの辺で・・・」
邪魔になると思って席を立とうとするも、
「いや、昨日の夜市の話だから、琴音ちゃんにもいて欲しい。」
と月影さんに言われ、すとんと同じところに腰を下ろす。しかし、しかし・・・
(ちょっ・・・・と・・・・近いんですけど・・・・!!)
空いていたのがそこだけだったからだというのは重々承知だ。
承知なんだけど、私の右半身の全神経が緊張で硬直している。
恋人らしき人がいるのも分かってる。でも、でも・・・
(どうしよう・・・呼吸の仕方、忘れそう・・・)
初恋でもないのにドキドキがひどい。
「まずは昨日の状況報告から。」
このままだとドツボにハマる・・・そう思い、必死で翔夜くんの報告に集中しようとじっと彼を見る。
「結論からすると、妖力の暴発だと思われます。」
封印房に連れ帰っただるまと今朝話をしたところ、すっかり正気に戻っており、ひたすら夜市に来ていたみんなに申し訳ないと平謝りだったそうだ。顔は真っ赤で、涙ぐみながら謝罪を繰り返していたという。
その後も正気のままであることを確認し、彼を釈放。その足で迷惑をかけた妖怪たちに謝罪に行くと言って帰っていったとのこと。
「まあ、一点気になるのは、記憶が定かではなくなる直前、何かの獣の鳴き声を聞いた気がすると言っていたことでしょうか。」
その言葉に、月影さんと蒼月さんが反応する。
「「獣の声・・・?」」
「はい、はっきり聞いたはずなのに、なんの獣かだけが思い出せないと・・・」
あの時私も夜市にいたけれど、獣の声は聞いていない。
「あ、ちなみに俺は聞いた記憶はありません。」
そうだよね。翔夜くんの言葉を聞いて、やっぱり聞いてないことの確証を得る。
月影さんと蒼月さんは相変わらなず何かを考えている顔をしていたけれど、
「でも、昨日は本当に厄介でした・・・」
はぁ・・・とため息をついて翔夜くんが続ける。
「結界で身を守ろうとすると、結界に当たってその衝撃で子だるまが湧いてくるし、結界に閉じ込めようとすると、その中でまた壁に当たって子だるまが湧いた挙句密集しすぎて爆発するし・・・」
ああ、昨日の二度目の爆発はガスへの引火じゃなくてそれだったのか・・・と、あの凄まじい音と炎を思い出す。
「そんなわけで、とりあえず結界作戦はやめて散らばった子だるまたちを回収しつつ、対処方法を考えていたら、琴音ちゃんが飛び出してきて・・・」
(本当にごめん・・・)
「結界張っても危険が増すだけだから、どうやって助けよう・・・って本当に気が気じゃなかった・・・・・」
昨日のことを思い出したのか、困った顔で私を見る。
「ごめんなさい・・・」
今度は声に出して謝ると、
「いや、結果的には無事だったからよかった。でも・・・」
そう言って、翔夜くんはその場にいる全員を見渡して、
「あんな結界、見たことあります?俺、あんなの見たことなかったから、昨日ここに戻ってきてからやってみたんですけど・・・どんなに強くイメージしても、できませんでした。」
アハハと苦笑いしながら、月影さんと蒼月さんに問いかけた。
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