第31話 夜市の暴走 -3-
周りを素早く見回した翔夜くんが、振り返って私に言う。
「俺、ちょっと対処しなきゃだから、琴音ちゃんは人混みに飲まれないよう気をつけて、できるだけここから離れてて!」
私のことを気にしてくれているのか、翔夜くんの顔には緊張の色が浮かび、目が鋭くなっている。
「ああ、くそっ。なんでこんな時に限って・・・」とぶつぶつ言いながら、口笛をピュイーっと吹いて現場に駆け出していく。
(何かの合図かな?この騒動の中じゃ、ほとんど聞こえないと思うけど・・・)
そんなことを考えている間にも、人の波がこちらに流れ込んでくる。
人の流れは夜市の通路に沿って流れているのを見て、幸いなことに近くにあるお店のすぐ後ろに生えている大きな木の影に身を寄せれば、人混みに飲み込まれずここにとどまれそうなことが見てとれた。
急いで木の影に隠れると、人の流れは案の定通路に沿ってどんどんと勢いを増していく。
だけど、それもすぐに落ち着いた。
なぜなら、もう火の上がる場所にはほとんど人はおらず、木の影から少しだけ顔を出して目を凝らすと、炎が巻き上がるお店の前には、翔夜くんと・・・
「だるま!?」
必勝祈願とかでよく見かける、あの、ころんとした赤い体に大きな目をしただるまにしか見えない何かが、あちこちに炎を吐き出していた。
木の影に身を寄せながら、私は状況をじっと見守る。
翔夜くんの表情は真剣そのもので、額には汗が滲んでいる。
だるまはゴロゴロと転がりながら炎を吐き続けていて、遠目に見ている限りでは、だるまが暴れているのか苦しんでいるのか判断がつかないが、火の勢いが強まるたびに胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
しかも、あろうことか、転がるたびにまるで火の粉が飛び散るようにだるまの分身が生まれる。
分身は本体に比べれば小ぶりだけれど、本体が本体なだけに、分身もそれなりに重量級だ。そして、同じように炎を吐くからタチが悪い。
本体をどうにかすれば分身たちが湧き出るのを止められるのでは?と思ったものの、どうやら本体への衝撃で分身がどんどん増えるようで、結界を張ったら張ったでそこにぶつかりまた増えている。
翔夜くんはというと、本体に衝撃を与えずに捕獲する方法を考えているのか、まずは忍者のように印を結んで何かを唱え、先に増えていくちびだるまをどんどん回収していく。
(何か、私にできることはないだろうか…)
そんな思いが頭をよぎり、再び木の影に身を寄せて考えるも、現状では何も思いつかない。ただ翔夜くんの無事を祈ることしかできないのだ。
その時、遠くで再び大きな爆発音が響き渡った。何かの燃料に引火したのか、炎の勢いがさらに強まるのが見える。
この近辺にとどまった数少ない周囲の妖怪たちも緊張した表情を浮かべ、騒然とした雰囲気が漂う。
(どうか、無事でいて…)
心の中でそう祈りながら、私は再び目の前の状況に集中する。やがて、炎の中から翔夜くんが姿を現し、親だるまと向き合っているのが見えた。
そこから漂う気というか、空気に圧倒されて鳥肌が立つ。
(すごい・・・)
と、私が身震いをしたその時、視界の片隅に小さな影が見えた。
(え・・・なに?)
目を凝らしてじっと見ると、なんと、子供の妖怪がだるまに向かって走っているのが見えた。
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