第30話 夜市の暴走 -2-
夜市は大通を抜けて少し行った先にある広場で開かれていた。
広場に近づくにつれて、人混みと熱気が増していくのがわかる。
(確かに昼の市とは人の数も熱気も全然違う・・・)
妖怪って夜型なのだろうか、と思ってしまうほど、数が多くて圧倒される。
はぐれないように翔夜くんの後をついていくと、程なくして広場に到着した。
「わぁ・・・」
夜に行われるフリーマーケットみたいなものかと思っていたけど、どちらかというと盆踊り会場みたいな賑やかさだ。
広場の中央には櫓(やぐら)が建っていて、そこで演奏される笛や太鼓に合わせてその周りを回るように妖怪たちが踊りを踊っているのだ。
櫓の周りには小さなお店がたくさん並んでいて、まるで縁日の夜店のようだ。
お店で交換されている品々も昼とは違う。
昼の交換市では農作物や工芸品のようなものが多く見られるのに対し、夜市では怪しげな道具や食べ歩きができるようなものが多い。
例えば、片隅には金魚すくいのようなゲームがあり、水槽には金色に輝く小さな竜が泳いでいる。
時折水面に飛び出して、ちっちゃな炎を吐いているのがかわいい。
隣には薬草や奇妙な形をした石、光を放つ宝石などが並んだ露店が軒を連ねている。香ばしい匂いが漂ってくる焼き鳥の屋台や、甘い香りがする大福餅の店もある。
(あれは……人間界にはないけど、美味しそう……)
音楽が流れる中、あちこちで妖怪たちの笑い声や話し声が聞こえる。賑やかな声が飛び交い、明るい提灯の光が夜空を照らしている。
「な?昼とはまた違って面白いだろ?」
翔夜くんが目を輝かせてキョロキョロしている私を見て、得意そうな顔で尋ねる。
「うん!ちょっと人間界のお祭りに似てて楽しい!」
満面の笑みでそう答えると、翔夜くんも嬉しそうに笑った。
見回り当番ということもあり、夜市の端から端までを翔夜くんと見て回る。
「なんだよ、翔夜。当番サボってめずらしく逢引か?じゃあ、せっかくだからこれ持ってけ。」
お店の人が笑いながら翔夜くんに声をかけて、冷えた飲み物を2つ差し出す。透明な瓶の中に光の粒が浮かび、冷たく涼しげな感じがする。
「サボってねーよ!ちゃんと見回ってんだろ!つか、めずらしくってなんだよ!」
翔夜くんも笑いながら応戦し、「ありがとな」って飲み物を受け取った。
いただいた飲み物を飲みながらさらに進んでいくと、他にも色々な人から声をかけられていて、そのやりとりを見るだけで、翔夜くんが街の人から愛されているのがわかる。
「なんかごめんな。みんなからいじられてばっかで全然琴音ちゃんと話ができなくって・・・」
めずらしくシュンとうなだれる翔夜くんに、
「全然だよ。むしろ、素の翔夜くんが見れて楽しんでる。」
ふふっと笑いながら飲み物を口に含む。
あたりから炭焼きの香ばしい匂いが漂ってきて、この先に焼き鳥屋さんでもあるのかな?なんて考えていると、翔夜くんは少し黙った後、急に真面目な顔で私を見た。
「あのさ、琴音ちゃん・・・」
その急な変わりように、どうしたのだろうとこちらも思わず真面目な顔になる。
翔夜くんの瞳には、何か伝えたいけれど躊躇しているような微かな揺らぎが見える。その表情は、いつもの軽い口調や態度からは想像できないほど真剣だ。
「俺と・・・」
彼が口を開く瞬間、背筋がピンと伸びるのがわかる。
何を言おうとしているのか、何が彼をそんなに真剣にさせているのか、興味と緊張が入り混じる。翔夜くんの唇が動くのを見つめながら、心臓がドキドキと早鐘のように打ち始める。
翔夜くんが何かを決心して話し始めた次の瞬間、
ドォーーーーーーーーーーン
という花火のような音がして、
「わあああああああ!助けてくれえええ!!」
「きゃーーーーーー!!」
「逃げろぉぉーーー!!」
と、先の方からたくさんの叫び声が鳴り響き、思わず声のするほうに顔を向けると、こちらに向かってものすごい数の人たちが逃げてくる。
そして、さらにその先を見ようと背伸びをして目を凝らすと、お店の一つから黒い煙とともに炎があっという間にゴオゴオと立ち昇っていくのが見えた。
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