第12話 出会い -2-
どこからか響き渡る女の人の声を聞いた椿丸くんは、
「やっべ!忘れてた!!」
と、慌てた顔で周りをキョロキョロ見渡した。それから、
「琴音、ごめん!俺、遣いの最中だったのをすっかり忘れてて・・・急いで片付けないとかーちゃんに大目玉食らうから、ちょっと用事済ませてくるわ!!」
そう言って、今来た道を引き返そうとする。
ちょっと待って!私はどうしたら!!
慌てる私に気づいたのか、
「あああ、ごめん!そうだよな!!とりあえず、この道まっすぐ行くとイチノマチに出れるから、そこで誰かに長老の屋敷に行きたいって言ってみて。」
と去りながら早口で叫ぶ。
誰かって誰に!!!
今までだって椿丸くん以外誰も近寄ってきてくれなかったのに!!
そんな不安な顔を読み取ったのか、再び私の元に駆け寄ると、
「そうだ。これ持ってけ。これがあれば俺の友達だって分かるから、誰かしら話聞いてくれるはず!」
腰につけていた小さな袋を外し、それを引き出物の袋の中に入れた椿丸くんは、あっという間に去っていき、
「ほんっとごめんな!また後で!!用事が済んだら俺も長老の屋敷に行くから、袋はその時返してなー!あとー・・・・・」
どんどん小さくなる声が聞こえたのはそこまでだった。
最後なんて言ってた?
遠すぎて最後まで聞こえなかったけど、まあ、仕方ない。
椿丸くんが去った後、私は再び一人になった。道の先を見つめながら、心の中にぽっかりと穴が開いたような感覚に襲われる。
「また後で!!」と言った彼の声が耳に残る。どれくらいの時間が経ったのか分からないけれど、気づけば私はじっとその場に立ち尽くしていた。
「また一人になっちゃった・・・」
小さく呟くと、胸の奥に不安が広がる。でも、さっきまでの孤独とは少し違う。今度は目的地がある。長老の家に行けば、きっと何かが分かるはずだ。
とりあえず、まっすぐ行くと「イチノマチ」とやらに着くらしいので、まずはそこを目指そう。
そうして、また一人になった私は、くねくねした道を進む。
古木の裏から伸びる道は、苔むした石畳が続いている。両側には高い木々が立ち並び、風が木の葉を揺らす音が心地よく響く。歩くたびに足元の落ち葉がカサカサと音を立て、その音が妙に心強く感じられる。
「イチノマチ・・・」
歩きながら椿丸くんの言葉を反芻する。まるで迷路のようなこの道を抜けた先に、本当にその場所があるのか。疑念と期待が入り混じる。
「イチノマチってなんだろう。数字のイチなのか、市場のイチなのか・・・」
あまりに慌ただしく過ぎ去った出来事に、
「たぬきに化かされるってこういう感じなんだろうな・・・」
なんてつぶやいて、くすりと笑う。
椿丸くんに会ったことで、孤独も薄れた。
長老のお屋敷という目的地もできた。
あとはまっすぐ進むだけだ。
そうまっすぐ・・・・のはずだったのに、
「ちょっとーーーーー!分かれ道じゃんーーーーー!!!」
突き当たりにたどり着いたのは良いものの、私がたどり着いたのは、「まっすぐ」とは程遠い、右か左かの分かれ道だった。
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