第2話 結婚式の帰り道 -2-

改札を抜けると、道ゆく人はまだまだ多く、土曜の夜らしい賑やかさだ。


自宅までの道を歩きながら、


(このままでいいのかな…)


またふと、そんな気持ちになる。


結衣は、大手企業のデザイン部門でバリバリ仕事をこなしている。しかも、今年初めてプロジェクトマネージャーを任されたと言って、さらにやる気に満ちていた。


それに比べて、私は、独創性や創造性は必要のない、いわゆるルーチンワークをこなすだけの毎日。

先輩は会社にとっての大事な仕事というけれど、大事な仕事というのは理解しているとして、正直私じゃなくてもできる仕事なのでは?と思うことも少なくない。


同期の半分は新しい環境を求めて転職してしまっているし、自分はこのままでいいのか、という焦りばかりが浮かんでくる。


「人と自分を比べてはダメよ。」と、よく母から言われる。


実家は代々続く神社で、女系の我が家は母が巫女をしている。神主の父はいわゆる婿養子である。

そんなこともあってか、母はとても勘が鋭く、私が悩んでいると大抵ふんわりとヒントやアドバイスをくれる。


私も多分人よりは勘が鋭い方だと思うけど、それを生かした職に就いているわけでもなく、今のところ巫女を継ぐつもりもない。


代々続いているのに「やりたい人がやればいいのよ」と母は全然気にしてないみたいで、なぜかそれはそれでプレッシャーにも感じたりする。


せっかくの結婚式のお祝いムードが、ネガティブなものに変わっていってしまいそうで、また一息ついてふと足を止めた。


「気分転換してこ。」


家に帰ってこの気持ちの揺れを母に勘付かれるのもなんだし、まだ時間も早いので、カフェで美味しいお茶でも飲んで気分を変えてから帰ろう。

そう思って、いつものお気に入りのカフェの方向へと向かおうとしたその時、


「あれ?こんなところに、こんなレトロなポストあったっけ?」


思わず口に出すほどにレトロな円筒形の赤いポストが目に入る。


さらに、そのポストの足元には小さな黒板風の看板が立っている。

ふと興味が湧いて近づいてみると、それはカフェの看板だった。


(へぇ・・・こんなところにカフェなんてあったんだ・・・?)


ポストの角をまがると、人通りの少ない路地がある。

私は幼い頃によく母に連れられてこの路地の先にある神社に遊びにきていたので馴染みはあるが、そうでもない人には素通りが当たり前の路地だと思う。

そんな場所だから、こんなところによくカフェなんて開いたな・・・と変な興味が湧いてきた。


看板に書かれたメニューはどれも好みのものばかりで、書き方からも柔らかい優しい雰囲気を感じる。

ポスト越しに路地を覗き込むと、鳥居に近い場所・・・つまり、この路地の入り口からはやや先の方に、オレンジ色の優しい光が漏れるお店が見えた。


(神社にご挨拶がてら、行ってみようかな。)


看板に書かれたチェリーパイも気になっていた私は、飲み物は何を合わせようかなんて考えながら、ポストの角を曲がって、久しぶりにその路地へと足を踏み入れた。

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