シーン8 ハンドマッサージはどう?

 準備、できたけれど……。やっぱりこれ、恥ずかしいわね……。


 え、すごくいい? 似合ってるって……、でも。


 演技:恥ずかしい


 他の子ならともかく、私のメイド服なんて……。


 ええ、私だからいいんだ? 普段真面目な会長がメイド服っていうのが最高に萌える――って!?


 そ、そんな大声で言わないで……。


 ほら、みんな見てるじゃない。私と君は生徒会長と副会長なのよ。みんなの模範なのに……。


 そんなに目立ったら……、その、恥ずかしい……じゃない。


 う、うん。そう。そうね。もう騒がない? じゃあ、いいけれど……。


 えっと……、じゃあ始めるわね?


 口調……? メイドマッサージじゃないのかって?


 う、うん。そうね。ちゃんとしてほしい? 

 う、うう……、これ、相当恥ずかしいのよ……。でも、うう、仕方ないわね……。


 演出:接近

 マッサージ、始めさせてもらいますね。ご主人様……。


 SE:水音?


 ええと、まずオイルをたっぷりと塗って……。


 あ、はい。そうです。このオイルの香り、良いですか? 

 はい。手をお借りしますね。もっと近く。もっと……。


 演出:接近


 え、顔が近い……? そ、そう、ですね。でもこれくらい近くないとしっかりマッサージできない、ですから……。ドキドキする? わ、私も……。


 でも、ほら。今はマッサージメイドだから……。


 まずは、肘まで、全体的に……。

 はい。しっかりと塗っていきますね。


 それから、手首から肘にむかって、ゆっくり、丁寧に……。


 どう、ですか? 気持ちいいですか?

 これは、筋肉をほぐすと同時に、心臓に向かうリンパの流れを整えて、血流をよくする効果があって……。


 あ、大丈夫? 痛かった?


 え、違う? 気持ちよくって思わず……って。

 そうなの? それで声が出ちゃったの? もっとやってほしい……って、そ、そう?


 それなら良かった、けれど。


 えっと、じゃあ、続けます、ね? ご主人様……。


 ゆっくり、ゆっくり。

 丁寧に、丁寧に……。

 

 はい。次は手の甲と掌です。


 まず手全体を両手で包みこんで……、はい。え、手が温かくて柔らかい? ふふ、そうですよ。この熱と柔らかさが大事なんですよ。


 お互いの体温がじんわり伝わって、それがリラックス効果に繋がって……

 え、そう、ですか? それなら、嬉しい、です。


 あ、ご主人様の手って……、

 何か変? ってそうじゃなくて、すごく大きいな……って。


 うん。普段から見てたはずなのに、こんなに大きいんだって。男の子の手なんだなって。うん。とっても、大きくて、安心する。


 あ、ごめんなさい。ちょっとぼぉっとしちゃって。

 続けます、ね。


 こうやって手の平から、指をマッサージします。

 今度は逆で、付け根から、指先にむかって、くるくる回転させながら、ゆっくり、丁寧に……。


 はい。そうですよ。

 この親指の付け根。柔らかいところ。ここが、気持ちいいですか?


 はい。そうですね。普段から頑張ってるからかなって? ふふ、そうかもしれませんね。ここが凝っている人は、肩や目に疲れがたまっているんです。


 え、実は会社に行っている? それで毎日仕事がある? だから疲れているんだ。

 そういう設定でお願いって……ふふふ。何それ。でもはい。承ります。


 じゃあ、御主人様は、机仕事が多かったりするんですか?


 はい、はい。そう。ふふ。そうなんですか? 上司が仕事を沢山抱え込んで? ほっとけなくて? 仕事しすぎで心配で心配で、それで自分もついつい頑張ってしまって?


 ふふふ、そうなんですね。


 でも全然嫌じゃない? むしろ楽しい? 

 一緒に仕事していると、毎日充実していて……って。


 そうなんですか……?

 ふふふ、あなたも十分頑張りすぎてると思いますけど。


 あ、いけない。今私はメイドでした。

 あなたのメイド。ね、ご主人様。


 ……でも、えらいですね。


 はい。えらいですよ。だってご主人様は別にその人の手助けを絶対しなきゃいけないわけじゃないのに。自分の仕事だけしててもいいのに。それなのに、たくさん頑張って、手助けして。


 ……何でそんなに頑張るんですか?


 え、好きだから……?

 え、え、え……、


 あ、好きって……っ、好きでやってるって事。

 あ、はい。ですよね。


 そうです、よね。


 でも。


 はい。それでもその人は本当に感謝してると思います。

 だっていつもいつも、助けているんですよね。


 だったらきっと、ちょっとやそっとじゃ返しきれないほど沢山の感謝がたまっていますよ。そして、どうして返せばいいのか分からなくなっていますよ。


 恩返ししなきゃ。こんなに助けてもらってるんだから。


 期待に応えなきゃ。何かしなくちゃ。……でももうこんなに。想いもあふれて、とても返しきれない……。


 あなたはどう思ってるのかな? 私はどうすればいいのかな? 

 でも立場もあるし、不器用だし、上手くできないし……。


 そんな風に思っちゃってるんじゃないですか。


 はい。そう。そうなんですか。

 なんとなくわかってはいる。そうなんですか……?


 でも、相手は、仕事人間だし、もっと大事な事もあるだろうから……ですか?


 そう、なのかもしれませんね。

 でも、でも……、そうじゃないかも。


 だって、もうすぐ、その仕事は終わるから。

 文化祭が終われば、この生徒会も解散するから――。

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