黒猫と一緒
森林木 桜樹
1「クロ」
「どうしてだよ。昨日まで元気だったじゃないか!!」
雨降る早朝。
必死に、目の前にいて、横たわっている黒猫に声を掛け続けている
鏡で見ると、とても見られた状態ではない顔をしていると思う。
黒猫の名前は、安直だと思うがクロ。
クロは、黒谷あやとが産まれた時から一緒にいて、喜怒哀楽を共にした。
まるで兄弟のように過ごした。
だが、もうクロも年である。
黒谷あやとは、今年で二十歳になる。
両親の反対を押し切って、一人暮らしのアパートにクロも一緒に連れて来ていた。
パソコン関係の仕事をしていて、毎日がとても大変な日々を迎えていたが、この会社は自宅で仕事が出来る為、とても助かる。
だが、家を出たのが十八歳の時で、クロも十八年生きている。
人間に例えると、八十八歳で、お年寄りだった。
とても元気に遊んでいたし、よく食べた。
二年後の二十歳を迎えた時、遊びはするが、急に食べが悪くなった。
様子を見ていたが、今日の朝、突然、動かなくなっていた。
触ると、少しだが体温が低くなってきているのが伝わってきた。
湯たんぽに、猫用のこたつ、水分、スポイトなど、色々と揃えて、処置をしている。
時間を見ると、まだ、午前六時で、行きつけの動物病院は午前九時からだから、その三時間、命を繋ぐ為に必死になっていた。
だが、水分を欲しがっていた口元が動かなくなるのを見て。
「俺の命あげるから、また、元気になってくれよ!!!」
すると、一つの黒い光が目の前に浮いていた。
大きさは、ラムネ位である。
何時からいるのだろうか?と考えるまでもなく、黒い光は言葉を発する。
「黒谷あやとですね。」
「え?はい。」
すると、黒い光は、一度、前に九十度回ると。
「初めまして、私は、
「生き返らせるじゃない。まだ、生きている!」
「すみません。言葉を間違えました。元気にしたいのですね。」
黒神は、クロの顔に近づいて。
「息が微かにあります。助かります。ですが、あやと。君の血液が欲しい。」
「俺の?」
「先ほど、命をあげるからと言ってましたね。ですので、本当にそうするのです。」
「そうだな。いいぞ!俺の命、クロに与える。だから、クロを助けてくれ!!」
クロの顔にいた黒神は、今度は黒谷あやとの顔に近づき。
「では、口を開けてください。」
「こうか?」
黒神は黒谷あやとの口に入って、奥にある歯を一本ぬいた。
少しだけ痛みがあっただけで、とてもきれいに一瞬でぬけた。
本来なら、麻酔が無ければ、意識が落ちる程の痛みを感じるのだが、黒神はぬく時に、痛みが感じない魔法をかけていた。
「この奥歯にある親知らずは、虫歯になっていましたから、別にいいでしょ?」
「虫歯になっていたのか!」
「見ますか?」
すると、歯が、とても黒くなっているのが分かった。
「さて、この歯についた血を…。」
黒神は、また、クロの顔に近づいて、歯から少しだけついている血をクロの唇につけて、呪文を言い、そして、終わる。
黒谷あやとは、クロを見ると、次第に鼻をヒクとさせ、耳もピルピルと動いた。
もう開かなくなっていた目が、ゆっくりと開いて、首を黒谷あやとに向ける。
そして。
「にゃー。」
鳴いた。
黒谷あやとも泣いた。
「クロ。クロ。大丈夫なのか?」
「大丈夫にゃ。」
「え?」
黒神は、すかさず説明をする。
「血を分けたので、あやとの相棒としてクロが一緒にいます。相棒の証である意思疎通が出来ないといけないと思い、クロには言葉を話せるようにしました。ただ、語尾はにゃですよ。」
説明を訊くと、クロは。
「うれしいにゃ。これであやとと一緒に話しが出来るにゃ。」
「話ししたかったのか?」
「当然にゃ。」
クロは、きれいに座り。
「これから、よろしくお願いしますにゃ。」
首を下げると。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
黒谷あやとも、正座になって、姿勢を正し、礼をした。
「さて、お二人に依頼があります。」
黒神は、黒谷あやととクロに依頼する。
「あれ?その顔は、依頼されると思わなかったですか?」
黒神は説明をし始めた。
「この地上には、見た目は白いですが、中身が黒いのです。それを浄化してもらいたい。」
就職していた黒谷あやとは、その言葉だけで理解する。
見た目、良い風に見えても、心では何を考えているのかわからない。
それが人間だ。
その逆もあり、悪そうに見えても、心では、とても人の役に立ちたいと気持ちが大きくある人もいる。
「で、どの様に見極めればいい?」
「人間には、頭の上に耳が無いわ。無い人は、害がない人だから、大丈夫。でも、猫耳や熊耳などを持った人がいたら、それは内心黒い心を持っている人。よく、企む時には、頭に悪魔の触覚が生える描写が漫画やアニメにはあるでしょ?それと同じです。」
「なるほど。だとすると、俺は、それが見えるようになったのか?」
「はい。」
頭に生えて来る耳は、人によって違うと、黒神から追加の説明があった。
「もし、見つけた場合はどうすれば?」
「簡単。クロがその人の肉体をかめばいい。」
「どこでもいいのか?」
「どこでもいい。」
黒神がクロに口を開けてと言って、クロは、そのようにする。
牙があった。
牙は、黒色に変化をしている。
「その黒牙で噛むと、その人が企んでいる心が浄化され、頭の耳が無くなります。無くなれば、完了です。それと、これも言って置かないといけませんね。」
黒神は、黒い光のまま、黒谷あやととクロの間に入り。
「お二人の意識は、共鳴しています。クロが傷つけば、あやとも傷つき、あやとが傷つけば、クロも傷つきます。お腹が空いていたり、風邪を曳いたり、睡眠不足だったり、そういうのも共鳴していますので、規則正しい生活と栄養バランスがよい食事、十分な睡眠は取って下さいね。」
二人に、優しく、丁寧に、ささやくと、黒谷あやとは思い当たることがあった。
その証拠として、台所である。
台所の水道付近は、いつ置きっぱなしなのかわからない食器が散乱していて、ゴミも処理していなかった。
冷蔵庫の中身をみると、栄養ドリンクが多く入り、食材なんて無いに等しかった。
「まずは、この家の掃除からだな。」
黒谷あやとは微笑んだ。
「こちらの仕事からも給料は出します。副業だと思って頂ければいいです。給料は三十日に現金でポストに入れておきます。」
「現金で?」
「はい。私は、現金が好きです。確かにカードで払うと、ポイントとかつきますが、可視状態が一番信用出来ますからね。ほら、漫画やアニメだと、じぇらなんとかケースでしたか?あのケースに、札束がぎっしり詰め込まれて、取引しています。別に、あのシーンにあこがれて、現金でと言っている訳ではなく、信用の問題ですよ。」
「そ、そうですか。(確かにあこがれる。)そうですね。で、いくらほど?」
「一ヶ月、そうですね……。」
耳にささやくみたいに金額を言うと、黒谷あやとは目を輝かせた。
「そんなに?」
「はい。」
「だとすると、ここよりも広い所に引っ越せる。」
「そのことですが、実家に帰りませんか?」
「え?」
「実は、あやとのお父様、少し、仕事の疲れが見えています。少し休ませないと、身体に良くありません。あやとは、今の仕事は、家で出来る仕事なので、実家でも大丈夫ですよね?」
「仕事は出来ますが、何?父さんが?」
「はい。まだ、大丈夫ですが、もしもの事もあります。今度はクロのように助けてあげられませんから、後悔のないよう、考えて見てください。」
黒谷あやとは、クロを見た。
「あやと、帰ろうにゃ。」
「クロ…、分かった。そうしよう。」
黒神は、再度、仕事内容を確認すると。
「では、道を歩いている時、買い物に出かけている時、頭の上に耳がみえる人がいたら、お願いしますね。」
空へと消えて行った。
空は、雨が降っていたが、いつの間にか晴れていて、とても気持ちがいい朝日がおはようしていた。
早速、自分の部屋を掃除しつつ、引っ越しの準備をし始めた。
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