世界が無音であれば良い
丸膝玲吾
第1話
世界が無音だったら良い。
私は他人の喋り声が苦手だ。
それは私自身が孤独であることゆえの嫉妬も確かに存在しているが、それは微々たるもので最も比重を占めているのは私の領域が侵されたことへの怒りである。
私はつまらぬことにも不安を感じるたちで、そういう気性を持つ人間は常時脳内が活発に活動している。それはそれぞれの原因、解決策を導くことができないまま新たな不安が発生するためであって、自分でもうんざりしている。
不安は全て自然発生するものではなくて自分由来のものだから、私は日々自己嫌悪に悩まされている。そういった状態の私の脳内に能天気な第三者の雑音が入ってくると、花火のような突発的な激しい怒りが湧いてくるのだ。
そうはいっても、いつも話し声に苛立つわけではなく、社内とか図書館の中とか静けさが求められる場面でのヒソヒソ話に限った話である。
開けた場所なら他にも沢山の雑音が入ってくるから、それらが相殺しあって気にならなくなるのだけど、室内であると彼らの話し声が薄まることなく直接耳に入ってくる。彼らの耳障りの声が頭に響く。
一度私の耳が彼らの声を掴むと、脳内は彼らの話し声を離さなくなる。彼らがいつ黙るか、私を苛立たせる彼らの話はどれほど重要なのだろうか、なぜ彼らは静かにしないのか。怒り、苛立ち、辟易、嫉妬、復讐心が一緒くたになって渦を巻き、激流を作る。
そうなるとこの現象は自然に収まることが不可能になってくる。
私はパソコンを開いて文章を打つ。頭の中に巣食う感情、文章を全て吐き出すことで渦を弱めて鎮火を図る。今も、私はバスの車内にいて後ろの方で顔見知りがヒソヒソと何かを話している。ふとくたばってくれないだろうか、と思う。
そんなわけで無音を日々願っている。音がなくなると孤独になる。外からのつながりの一つが失われるから大きな疎外感を感じるだろう。
しかし、私は元々孤独である。友達もいないし、日々誰かと会話しているわけではない。
だから別に音がなくなっても構わない。
構わないのだ。
世界が無音であれば良い 丸膝玲吾 @najuna
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます