(17)6月28日 金曜日

 着信アラート音。画面上の『応答』表示をスワイプする。



***



「おはようございます。6月28日金曜日、午前7時くらいをお知らせします」


犬童いんどうです。今日はなんか──変な感覚ですね」


「それにしても、やられました。『見ていてなんとなく不安になる出席番号8番を見守る会』の策略に見事にはまりましたね」


「まさか勉強会で二人きりにさせられるなんて。向き合って座っていたわけではないですけど、気まずかったし、最初は緊張で汗がやばかったです」


「前にも言いましたけど、男の人って慣れていないんですよね。二人きりだと緊張がより一層ひどくなります」


「でも、まあ、その時点で帰らなかったのは、悪くない判断でした」


「真面目に勉強している──とっても珍しいあなたの姿を見ることができましたから」


「あなたって集中力、結構あるんですね。わたしの視線にほとんど気付かないくらい、集中していましたよ」


「────。はぁ、あの、別に謝らなくていいですけど。集中していたのって悪いことじゃないですし」


「あなたの視線に気付くたびに動揺していたわたしはたぶんアホなだけなのでしょうし」


「でもおかげさまで、男の人と一緒にいることには慣れました。正確にはあなたと一緒にいることに慣れたというだけですけど」


「あなたって──なんかこう、居心地の良い雰囲気を作りますね。気まずさも緊張も最初だけで、そのあとは適度にリラックスできました」


「あ、そういえば──ふふ、思い出しました。数学の公式を謎の呪文みたいにぶつぶつと唱えているときのあなたは、まあまあ可愛かったです」


「ではそろそろ切りましょう──とはなりません。最後に一つ。お知らせしておきます」


「昨日のあなたを見て、あなたが──普段の授業は言うまでもなく、得意科目以外のテストでも手を抜いているのが分かりました」


「そのくせ、どの科目も要領良く平均点はキープするらしいですね。まあ、必要最低限の努力はしているみたいですけど」


「そういうのって、なんかずるいです」


「わたし、あなたみたいな──能力はあるのに全力で頑張らない人は嫌いです」


「だからテストでは一科目も負けません。あなたの得意科目の化学ばけがくも、です」


「なので来週ですが、起こしてあげません。あなたなんて、寝坊して、テストに遅刻して、不戦敗になってしまえばいいんです」


「ふぅ、言いたいことを言ってすっきりしました。今度こそ切ります。では、学校でお会いしましょう」

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