(15)6月26日 水曜日

 着信アラート音。画面上の『応答』表示をスワイプする。



***



「おはようございます。6月26日水曜日、午前7時くらいをお知らせします」


「というわけで犬童いんどうちゃんでーす。やっぴー」


「────」


「────」


「────。絶句しないでください」


「わたし寝不足でテンションがおかしいんです。はぁ、あなたはお気楽そうで良いですね。でもアレレ〜、おかしいな。あなたも期末テスト前なので、少しはテスト勉強のせいで寝不足になっていてもおかしくないはずなのに」


「────。はぁ、『俺も動画見てたら遅くなって寝不足だからお揃い』、ですか?」


「ふぅん、まあいいですけど」


「あのですね、もちろんご存知にご存知をお重ねいただけているかと存じ上げますけれど、本日は英語の授業がございます」


余裕綽々よゆうしゃくしゃくのあなた様はすでに予習など終えていることでしょうし、わたしが手伝う余地などないことでしょう」


「では切りますね」


「────。『ごめんなさい。予習、手伝ってください』、ですか。いや、あの、分かりますよね。今週はわたしも余力がないのですよ? あなたのおサボりの尻拭いをしている時間があったら、英単語の一つでも覚えたいですし」


「それに先週、『心変わりした。ちゃんと予習をするようにする』と言ったのもあなたですし」


「そんなことばかり言うのなら、『あなたを毎朝起こす係』をやめようと思います」


「缶コーヒー一つじゃ労力に見合わないですよ」


「────。『俺になにかできることはないか』、ですか」


「ちゃんと予習をしてくれることです。それ以外にはありません」


「あ、でも、そういえば……。一応聞いておきますけど、得意科目ってありますか?」


「────。化学ばけがく、中間テストはクラストップだった、だと?」


「へえ、あなただったんですね。うちの学校ってテスト結果の順位張り出しとかないから、誰が一番なのか分からないんですよね」


「────。『化学ばけがく、教えようか?』、ですか。いえ、結構です」


「ちょっと頼もうかとも考えていたのですけど、今の自慢気な言い方がムカつきました」


「でも、ありがとうございます。おかげでモチベーションが上がりました。化学ばけがくのテスト、絶対に負けません」


「ふふ、ただ──そうですね、モチベを上げてくれたお礼に、英語の予習、手伝ってあげますよ」


「あと……さっきの本気で助けを求めているときの声。ちょっと可愛かったです」


「では切ります。学校でお会いしましょう」

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