(9)6月19日 水曜日

 着信アラート音。画面上の『応答』表示をスワイプする。



***



「おはようございます。6月19日水曜日、午前7時くらいをお知らせします」


「というわけで犬童いんどうです。やっと水曜日ですね」


「今日は宿題の提出がありますよ。さて、教科は分かりますか?」


「────。『今日は宿題はないはず』、ですか。やりますね、正解です。引っかかりませんでしたね」


「では英語の予習はどうですか? 今日はあの怖い先生の英語がありますよ」


「────。『今日は指名されない予感がする』、ですか。ダメですね、不正解です。そういう寿命を縮めそうな判断でサボってはいけません」


「その様子だと、今日も早く学校に行く準備をした方が良さそうですね。たぶん」


「────。『俺のためにありがとう』って、あのですね、ここでお礼を言うくらいなら、昨晩のうちにちゃんと予習を終わらせてからスヤァしてください」


「頑張るところが間違っているんですよ」


「たとえば昨日ですけど──わたしの真似をしてなのか、格好つけていただけなのかは分かりませんけど、ブラックの缶コーヒーを飲んでいましたよね。でもものすごぉく不味そうな顔をしていました」


「そういうところは頑張らなくていいんです。学校は勉強をするところですし、勉強をすると糖分が欲しくなります。甘々あまあまのミルクティーを飲んでも良いのですよ」


「────。『別に不味くはなかった』、ですか。嘘ですよね、一口飲んだだけですでに絶望的な表情をしていましたよね」


「背伸びしている子供みたいで、ちょっと可愛かったですけど」


「とにかく、あなたは予習と宿題を頑張ってください。ブラックコーヒーは頑張らなくていいんです」


「────。『コーヒーが好きになるまで頑張る』、ですか。はぁ、まあ、そこまで言うなら勝手にしてください。人には無駄なことをする権利があります」


「長話をしていると予習の時間がなくなっちゃいますね。そろそろ切ります」


「では。学校でお会いしましょう」

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