Day15 岬
うちの隣室――つまり202号室の件は、結局自殺ということになるらしい。
少なくとも住人の女の子に非はない。彼女につきまとっていた男がアパートの鍵を盗んで合鍵を作り、それを使って部屋に侵入したものの、突然錯乱して外に飛び出し、外廊下の手すりを乗り越えて落下。運悪く首の骨を折って死亡――ということになるようだ。
あの夜、廊下に出たことを後悔する自分もいれば、それでよかったと思う自分もいる。あのとき私は隣室からの激しい物音を聞き、様子が気になって玄関を開けた。すると突然202号室のドアが開いて、見知らぬ男が飛び出してきた。男はその勢いのまま手すりを乗り越えていき、直後にズンという音が響いた。
つまり私は人が死ぬ瞬間を目撃してしまったわけで、それは何日か経った今でも夢に出る。でも私の証言がなければ、202号室の子はあらぬ疑いをかけられていたかもしれない。トイレの前で震えていた女の子の姿を思い出すといまだに怒りで体が熱くなるし、彼女の助けになれてよかったとも思う。
ほぼ同時に部屋から出てきた204号室の男性が、ショックで動けなくなっていた私たちの代わりに警察を呼んでくれた。
「とんだことになりましたね」
「ほんと。でも202の人が無事でよかった」
そんな会話を、警察署の廊下で交わしたことを覚えている。
大変なことがあったけれど、202号室の住人は、今のところ引っ越す予定はないらしい。
引っ越しが必要なのは、むしろわたしの方かもしれない。
クローゼットの中の女は、もう完全にこちらを向いている。顔は見ていないけれど、つま先の向きでわかる。
女がこちらを向くようになってから、夢に知らない土地が出てくるようになった。灰色の海に、特徴的な形の岬が突き出している。クローゼットから手紙と一緒に出てきた写真の背景に写っていた場所と、おそらく同じところだろう。
夢の中で、私の足は日に日にその岬の先端に近づいている。
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